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「通用するとか、しないとか、何言ってんだと思いますね」メジャー挑戦直前に聞いたイチローの言葉

『イチロー・インタビューズ 激闘の軌跡 2000-2019』

2019/09/03
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佐々木さんとは、マジメな話にはなりえないしね

イチロー 佐々木さん? あんまり僕はあの人のことは信用してないからね(笑)。アドバイス? 何か言ってたかな。言ってたような気もするなぁ……でも、記憶にないなぁ(笑)。向こうではどうだとかという話はあんまりしてないんですよ。まぁ、佐々木さんとは、そんなマジメな話にはなりえないしね。

 不安なのは、休みがないってことかなぁ。休みがないって、けっこう不安なものですよ。練習のスタイルが、日本と違ってゲームに集中するためだけのものだろうから、そういう疲労はこっちに比べれば少ないと思うんですけど、やっぱりねぇ。毎日プレーすることを考えると、これは大変でしょうね。

©佐貫直哉/文藝春秋

 まぁ、開幕に向けてベストに持っていくつもりは全然ないんです。ある程度までは、とは思っていますけど、いろいろなことに慣れてきた頃、自分の中に、二度目の開幕という意識が生まれてくるかもしれないですね。

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 走攻守でいえば、メジャーで一番びっくりさせられるのは走塁のときじゃないかな。守る側のスキのなさだとか、とんでもない肩だとか、そういう思いもしない能力を感じさせられるのは、走塁をしている時でしょう。内野手の能力は特に違いますからね。だから今まで、自分で無意識のうちにやってたことも、意識をして、その意識をさらに強くしていかないと痛い目にあうかなという想定はしてます。抜けたとか、間に合うとか、そういう感覚のズレは意識の問題で解決できると思うんです。たとえば、リードをするとき、どのタイミングでセカンド側にシャッフルするか、体重のかけ方もかなり強く意識していないと難しいでしょうね。自分の中で一番可能性が残されているのが走塁だと思うんです。あとの、攻と守に関しては、何かを探そうと思っても、感覚として現段階では何も見つからないですからね。

©佐貫直哉/文藝春秋

 ストライクゾーンも違うでしょうし、攻められ方も違う。そういう違いは必ず存在するので、それには柔軟に対応しなくてはいけません。日本でも、メジャーとの違いを意識したバッティングはしていました。見逃したとき、あっちならどうかなっていう意識は常に持っていたし、日本ではボールになる球でも打ちにいっていました。移動が厳しいとも聞きますから、それならって寝ないで試合に行ってみたりね。もちろん、これはオープン戦の時ですけど。

 でも、自分でつくってきたものに関しては変えられない。野球場においては、プライドを持ってその場に立つということは変わりません。これまでと何も変わらずに、ただユニフォームが変わっているだけだ、と。信念を持ったことは、向こうのスタイルがこうだからといって揺らぐわけにはいきません。