そのあとしばらくブランクがあり、7年後の1977年、大麻論争に発展した『たかが大麻で目クジラ立てて…』と題する、関元という編集委員の署名記事が毎日新聞で発表され、当時大変話題になりました。井上陽水が大麻で逮捕されたことを受けて、日本の厳しい取り締まりに疑義を呈していて、週刊文春や週刊朝日でも取り上げられました。ただ、この時期のマスコミは『マリファナを吸引するのは反社会的行為として許されない』というよりは、まだ『マリファナは本当に悪なのか?』と懐疑的なんです。面白そうだ、のぞき見したいというミーハーな欲望が垣間見えます」
日本のマリファナ取り締まりはタブーめいた先入観
「たかが大麻で目クジラ立てて…」で関氏は、「マリフアナ(大麻)で挙げられた井上陽水は警察にとって金星か、マスコミにとって堕ちた天使か、ファンにとって殉教者か。彼がそれらのいずれにもならぬことを願いたい。いまどき有名スターがマリフアナで捕まって全国的なスキャンダルになるのは世界広しといえども日本ぐらいのものだ。たかがマリフアナぐらいで目くじら立てて、その犯人を刑務所にやるような法律は早く改めたほうがいい」と書き、マリファナおよび薬物乱用に関する全米委員会(134~135頁を参照)が出した報告書を紹介しながら、日本のマリファナ取り締まりは科学的というよりタブーめいた先入観に立脚していると批判している。興味深いのは、井上陽水を逮捕した警視庁の河越保安二課長のコメントだ。「マリフアアナはひと握りの隠れた愛好家が吸っている程度で、覚せい剤犯と違って彼らは他の犯罪に走らず、社会に迷惑をかけてもおらず、暴力団の資金源にもなっていない」として、日本の大麻取締法が所持に五年以下、密売に七年以下の懲役刑を定めながら罰金規定を欠いているのは「意外と重い」と感じていることが記事中に紹介されている。
井上陽水が逮捕された同年1977年には、京都で活動するアーティスト芥川耿氏も自宅で大麻を栽培して逮捕されるが、大麻取締法自体が憲法違反であると主張して、国を相手取り裁判を行った。この裁判には、かつてはティモシー・リアリーのもとで修業し、のちに『ナチュラルマインド』など多数の著作を残した医学博士のアンドリュー・ワイル氏も来日し、大麻の臨床実験データをもとに、大麻に対する独自の見解を証言している。
しかし、日本の大麻取り締まりは時代とともに厳しくなっていった。1966年に176人だったマリファナの逮捕者は、1970年には487人、1979年には1000人を超えていた。