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「自分の命はもういいかな」堀ちえみさんが明かす“それでも私が舌がんと闘えた理由”

がんになったからこそ得られるものがある

2019/11/21
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「まだ一緒にいたかったのに」と泣いた娘

 そんな彼女に病に立ち向かう勇気を与え、支えたのが家族や医療スタッフだった。とくに印象に残ったのが、当時16歳だった下の娘の言葉だ。最初に舌がんの診断を受けた直後、正直に事実を告げるとわーっと泣いて、こう言ったという。「お母さん、かわいそう過ぎる」

©文藝春秋

 ここ数年、彼女はリウマチ、神経障害性疼痛、特発性大腿骨頭壊死症など、いろんな病気に苛まれてきた。「いいお薬が見つかって、やっと痛みから解放されたと思ったら、今度は口内炎ががんだったなんて。私、まだ16歳なんだよ。まだまだ一緒にいたかったのに」

 そう言いながら泣く娘の姿を見て、彼女は「もうこのまま手術もせずに、あの世に行ってしまっても構わないと思ったのは、すごく自分勝手だったと気づきました」と話す。こうした娘の言葉や家族の支えがなければ、彼女は手術を受けず、今頃は命が尽きるのをただ待つだけだったかもしれない。

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日常生活を大切に生きようとしている

 彼女は舌がん治療後も、1日数回のブログアップを続けている。そこに綴られているのは闘病の記録や芸能活動だけではない。掃除、洗濯、買い物をし、おしゃれをして家族や友人と出かけたり、外食や旅行を楽しんだりする等身大の姿だ。それを読めば順調に回復し、日常生活を大切に生きようとしていることがわかる。

©文藝春秋

 ブログにアップされた食べ物の写真の中には、焼肉やサラダのような、飲み込みにくそうな固いものも登場する。彼女自身、「こんなに早くふつうのものが食べられるようになると想像もしていなかった」と話す。「私も家族と同じごはんを食べて、安心してもらいたい」。そんな一心で、がんばったのだという。

「教官!」「ドジでノロマな亀」などの名文句で一世を風靡したTVドラマ「スチュワーデス物語」。主人公・松本千秋を演じた彼女より1つ年上の筆者も、高校時代にリアルタイムでこのドラマを見ていた。あれから36年、愛らしいアイドルだった彼女が、凛とした大人の女性の姿で目の前にいる。ぶしつけな質問にもできるだけ正確に、かつ誠実に答えようとする姿に、筆者は深い感銘を受けた。