一流は一流を知る。そのために必要な球数はわずか3球だった。4球団競合の末に大船渡高校・佐々木朗希投手の交渉権を獲得した千葉ロッテマリーンズ。井口資仁監督がスカウトから渡された映像でしっかりとその投球を見たのは10月6日の事だった。

 映像は8月26日に神宮球場で行われた大学日本代表との壮行試合で先発した時のもの。この試合の映像はスカウトが陣取るバックネットからではなく、バックスクリーン側から撮影が出来ていたということもあり重宝されていた。

プロの第一歩を踏む日が近づいている佐々木朗希 ©梶原紀章

「過去に見たことがないようなストレート」

「これはモノが違う」

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 時間にして1分もなかっただろう。わずか3球、見ただけで指揮官は感嘆の声を上げた。もちろん、これまで周囲やメディアを通して佐々木の凄さは伝え聞いていた。ただ、ドラフトで指名するかどうかとなると厳しい目と冷静な判断が必要だとの思いを持ちながらこの日、松本尚樹球団本部長、永野吉成チーフスカウトとミーティングに向かった。この時点では7から10球団が競合する可能性があるとされていたこともあり、そのリスクを取るかどうかの決断に揺れていたが、映像を見た瞬間に悩みは立ち消えた。

「過去に見たことがないようなストレート。今までにないようなストレートの軌道だった。豪速球投手というのはよくボールがホップするというが、それとも違う。なんというか、どこまでも同じ軌道と威力で伸びていきそうな球だった。『あえて言うと過去の名投手の誰と似ていますか?』と聞かれることもあるが、それがいない。本当に見た事がないストレートだと思った」

 ミーティングを終えた井口監督は興奮した表情で佐々木の評価を口にして目を輝かせた。その表情はもうすでにドラフトで交渉権を獲得し、千葉ロッテマリーンズ入団が決まっているかのように興奮していた。

 永野チーフスカウトが初めて生で佐々木を見たのは今年3月、栃木で行われた作新学院対大船渡高校の練習試合だった。スピードガン計測でストレートはMAXで156キロほどを計測した。それよりも目についたのは投球フォームだった。

「あれだけ大きな体で足を大きく上げて投げるのにコントロールがよい。スピードボールを低めに集めていた。自分の体をしっかりと自分でコントロールが出来ている印象を受けた。自分の体をコントロールできる子はボールもコントロールできる。まるでプロで何年もやっている投手を見ている感覚だった」

 体力面の心配は懸念されるが未完成の投手という印象はまったく受けなかった。むしろ完成に近い状態。あとはオーバーワークにならないように配慮しながらプロの体力がつけば、早い段階で一軍の舞台で活躍できると判断をした。