東京都内のホテルで10月17日に行われたドラフト会議。12球団の控室は同じフロアにズラリと並んでいる。今年は千葉ロッテマリーンズの両横が北海道日本ハムファイターズと東北楽天イーグルス。前が東京ヤクルトスワローズ。ライバル球団たちの指名順番をシミュレーションしながらドラフト前、最後の会議がここで始まる。まさに呉越同舟状態。
もちろん、ドアを閉めての秘密会議。果たしてワールドクラスの大船渡高校・佐々木朗希投手に何球団の指名が重なるのか。おそらくすべての球団の控室で、スカウトたちが集めた情報を元に分析と対策が練られていたはずだ。球団の将来にも関わる重要案件だけに、基本的に重い空気が漂うところだが、マリーンズの部屋からは時折、笑い声が漏れる。それくらい明るい。とにかく明るかったのだ。
“とにかく明るい”マリーンズのドラフト会議
ドラフト会議場への集合5分前には控室の中のホワイトボードに「佐々木朗希」と達筆な字で書かれた。書いたのは黒木純司スカウト。字が上手いことには定評があり、毎年、ホワイドボードに指名選手の名前を表記する役を任命される。もちろん、大船渡高校の佐々木の交渉権を獲得したいという強い想いを込めてだ。ちなみに同スカウトが字が上手いのは小学校の時に祖母から「字は綺麗に書きなさい」と口酸っぱく言われて学校のノートをチェックされていたから。しかし、まさか黒木スカウトの祖母も、このようなところで字が綺麗な事が生かされることになるとは夢にも思っていなかったはずだ。
そして直前ミーティングの最後は永野吉成チーフスカウトが大きな声で締める。今年は「朗らかに希望に満ち溢れた選手を獲得しましょう」と宣言。もちろん佐々木選手の名前「朗希」をかけたもの。これには全員爆笑。松本尚樹球団本部長から「事前にネタを仕込んでいましたね」と突っ込まれると、もう一度、笑いの渦に包まれ、そして全員で右手を掲げ「エイエイオー」(これは昨年から導入。大阪桐蔭高校の藤原恭大外野手をクジ抽選の末に引き当てた際にも行っており、縁起を担ぎ2年連続2度目となった)。ラグビーの選手たちがグラウンドへと向かうように男たちが、いざドラフト会場へと歩みを進めた。
思い返せば、明るさはマリーンズの伝統だろう。毎年、この控室での直前会議は盛り上がる。ボビー・バレンタイン監督の時はドラフト会議会場に向かう前、スカウト全員がそれぞれの財布から100円玉などの小銭を出し、監督の右手に気を込めて渡すという作業を行っていた。スカウトの気持ちの籠った小銭をスーツの上着ポケットに入れてバレンタイン監督は会場に向かうというまさに全員の気持ちを一つにした儀式だった。
明るい理由としてもう一つ挙げるのであれば、控室の机に置かれているロッテのお菓子の山だろう。チョコにキャンディーにガム。ミーティング際中に食べて和気あいあいと進める。お菓子はピリピリとした雰囲気になりがちの会議を和ませてくれる。今年はドラフト2日前にZOZOマリンスタジアムで行われたスカウト会議でもロッテ本社の計らいでお菓子が机の上に登場し、場が和んだ。会議後に報道陣から「今年の会議でなにか面白い取り組みはありましたか?」と質問された井口資仁監督は「ロッテのチョコを食べ、ガムを噛みながら行いました。チョコを食べながら会議を行うと頭がリフレッシュする。いい発想が出てくると言われているので。いい感じでした」と回答。ロッテならではの会議の進め方をマスコミに嬉しそうに披露していた。