新旧背番号〈1〉夢の共演が実現!

 WBCがついに始まった。ヤクルトファンとして、ひそかに楽しみにしているのが、青木宣親(アストロズ)と山田哲人による、「新旧背番号〈1〉夢の共演」だ。

 ご承知の通り、ヤクルトには「準永久欠番」というシステムがあり、むやみやたらに乱発しない大切な背番号がある。球団もファンも、誰もが認める活躍を残したスター選手だけが背負える番号であり、一例として大矢明彦や古田敦也が背負った、正捕手の正統である背番号《27》は現在、「適任者がいない」という理由で欠番となっている。

 しかし、若松勉、池山隆寛、岩村明憲らに与えられた背番号〈1〉は、現在は山田哲人に託され、神宮球場で常に躍動を続けている。ヤクルトでは背番号〈1〉は、「ミスタースワローズ」の象徴であり、先に上げた3人に続いて、青木も山田も、この番号を身にまとってファンの胸を揺さぶり続けたのだ。

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 2010年から翌11年までは青木が背番号〈1〉を背負い、アメリカへと旅立った。その後、4年間の空白期間を経て、16年からは「ミスタートリプルスリー」こと、山田がそのバトンを受け継いだ。山田が背番号〈1〉を背負うことが決まったとき、わざわざ青木がアメリカから記者会見場にサプライズで現れ、山田に真新しいユニフォームを手渡した瞬間は、歴史の重みを感じさせるのに十分な実に美しい光景だった。

 今回のWBCでは、その青木と山田が同じユニフォームを着てグラウンドに立つ。両者が同じユニフォームを着てグラウンドに立ったことは、かつて一度だけあった。山田のプロ1年目であり、青木のヤクルト最終年となる11年のクライマックスシリーズ以来の再会が、ついに実現するのだ。しかも、WBCという4年に一度の大舞台で。

 侍ジャパンで〈1〉を背負うのは内川聖一(ソフトバンク)なので、今大会では青木は〈7〉、山田は〈23〉と別の番号であるけれど、それでも僕は大会本番において両者の名前がスコアボードに刻まれる瞬間を楽しみにしている。

元祖ミスタースワローズからのエール

背番号《1》の重みを語る若松勉さん ©長谷川晶一

 この夏に出版予定の『ヤクルト本(仮称)』において、僕は歴代「ミスタースワローズ」に背番号〈1〉の重みを聞いて歩いた。まずは背番号〈1〉の価値を飛躍的に高めた若松勉さんに、池山、岩村、青木、そして山田についていろいろな質問を投げかけた。

 その際に強く印象に残ったエピソードがある。青木を評して、若松さんは言った。

「池山や岩村はけっこうしっかりした身体をしていた。でも、青木は体つきがオレにそっくりだった。池山、岩村と比べると、いちばんか弱かったし、ひ弱だったし。あの小さい身体であそこまで頑張ったというのは本当にすごいことだと思うよね」

 公称168cm、「小さな大打者」と称される若松さんが、身長175cmの青木を「あの小さな身体でよく頑張った」と評価している! 歴代の背番号〈1〉の中でも、若松さんにとって青木は格別な思いを抱かせる存在なのだろう。

青木宣親からの年賀状

 若松さんにインタビューする際に、事前に彼の著作やインタビュー資料を読み込んでいたのだが、その中に、「青木からもらった年賀状を大切に持ち歩いていた」という一節があった。そこで、「どうして年賀状を持ち歩いていたのですか?」と、僕は尋ねた。

 次の瞬間、若松さんは「それはね……」と言いながら、手元のセカンドバッグをまさぐり始めた。僕は(ひょっとして……)と息を呑む。すると、若松さんはバッグからヨレヨレになった年賀状を取り出したのだ。そこには「平成十七年 元旦」と書かれている。

若松勉さんに送られた青木宣親からの年賀状 ©長谷川晶一

 思わず、「どうして、10年以上も青木選手からのハガキを持ち歩いているのですか?」と尋ねると、若松さんは恥ずかしそうに笑った。

「これね、オレのお守りのような気がするんだよね」

――お守り?

「そう、お守り。その後、青木は高打率を残して一流選手になって、さらにアメリカで活躍して……。このハガキを持ち歩いて野球観戦をしながら、“青木のような選手が出てこないかな?”っていつも思っているんです」

 自らの弟子に対する深い愛情が感じられる言葉だった。これこそ、ヤクルトが誇るべき「ミスタースワローズ」の輝かしい系譜なのだ。若松さんは監督時代に青木をスター選手に育て上げ、今春のキャンプでは臨時コーチとして山田哲人の練習を見守っていた。

 若松、池山、岩村、青木と脈々と受け継がれてきた背番号〈1〉が、現在では山田に託された。そして、幸運なことに先代の背番号〈1〉である青木はまだ現役選手なのだ。冒頭に掲げた「新旧背番号〈1〉夢の共演」が、WBCで実現するのだ。ヤクルトファンならば、この感動をご理解いただけるはずだ。青木と山田がどんな活躍をするのか。期待して見守りたい。

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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。