ブーム再来。雑誌や新聞が落語の企画を組むと、必ずそんな見出しが大きく躍る。
もう何年も前から、実力と個性を兼ね備えた噺家の落語会を観るため、チケット入手は熾烈をきわめていた。この時点でブームはおきていた。
さらに名人だけでなく、若手の二つ目を追いかけるマニアも急増した。そして一年前には、雲田はるこ原作『昭和元禄落語心中』のアニメ版が深夜帯で放映され、興味をもつ層は一気に拡がった。
主人公は身代わりで懲役に服していたヤクザの与太郎。刑務所へ慰問にきた名人、八代目有楽亭八雲の「死神」を聴いて、心を掴まれた。
懲役を務めあげると、刑務所から寄席に直行。八雲に弟子入りを直訴する。弟子をとらない気難しい名人が、表情ひとつ変えず入門を許す。
真夜中のテレビで、この落語アニメに遭遇したときは、画面に釘づけになった。与太郎はとことん陽気で、落語を愛する熱血漢だ。一方の八雲は、名人たちが造った落語の型をきっちり踏襲する完璧主義者で、表情は常にクール。
明と暗。このコントラストに一発でKOされた。八雲の顔にふと浮かぶ、虚無的な翳り。それが若いころのライヴァルであり、心を許した唯一の友、二代目有楽亭助六の死に起因することがわかる。
天才肌で、どこか哀しいほど明るい助六と、すべてが正反対の八雲。二人には恋愛のような感情が流れている。
笑いと耽美。そして落語とは何かという大命題。その三要素を肌理こまかく描いたアニメの続篇を、また観ることができたなんてね。耽美と記したが、老いた八雲の表情、所作、そして声が妖しいほどにエロチックなんだ。
雲田はるこの原作コミック全十巻に、先にあげた三要素はすべて描かれている。ではアニメが付け加えたものは。声だ。与太郎(関智一)に助六(山寺宏一)、そして八雲(石田彰)を演じた声優陣がアニメに彩りを添えた。
与太郎は三代目助六を襲名し、先代助六の娘、小夏と夫婦になった。伝統を守る八雲がいて、新しい型を求める二人の助六がいる。だから落語は面白い。受け継ぐ者がいれば、破壊する演者もいる。
DVDやCDで昭和の名人を聴くのも楽しい。しかし一番スリリングなのは、いまホールや寄席で演じられている噺だ。現在進行中の落語が刺激的だから、『落語心中』のような伝統と破壊ともに備えた傑作が生まれた。
▼『昭和元禄落語心中―助六再び篇―』
TBS 金 26:25~26:55