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「子どもはちゃんと物事を感じている」アニメ『鬼太郎』”攻め”の脚本が出来上がるまで

『ゲゲゲの鬼太郎』シリーズ構成・大野木寛インタビュー

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通算6度目のアニメ化となる『ゲゲゲの鬼太郎』(フジテレビ系にて毎週日曜朝9時~放送中)。子供向け作品でありながら、“ブラック企業”、“整形依存”、“ハラスメント”など現代社会の問題に積極的に切り込む姿勢は、視聴者から“今期の『鬼太郎』は攻めている!”と評判だ。刺激的な脚本がいかにして出来上がるのか、シリーズ構成の大野木寛にたずねた。

現在「最終章ぬらりひょん編」が展開中。妖怪ぬらりひょんはアニメ3期以来おなじみとなっている鬼太郎の好敵手だ ©水木プロ・東映アニメーション

妖怪を今の社会問題と結びつける

 ――今回の『鬼太郎』は、通算6度目、1期の放送開始から数えると50年目のアニメ化にあたります。作品作りにおいて、どのようなことを意識されましたか?

 大野木 水木先生の世界を守りつつも、今風にしなくてはならない、と意識しました。原作自体が古いものですから、今を生きる子どもたちに観てもらうためには、いかに現代的なテーマと結びつけるか、ということを考えなければなりません。

 ――具体的には、脚本のどのようなところにその意識が現れていますか?

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 大野木 妖怪を今の社会問題と結びつけるようにしています。例えば、原作の連載が始まった1960年代は、地方は常に開発の対象で、話の中でも、開発によって、なにかの封印が解かれてしまって、妖怪が出てきて暴れるというパターンが多かった。しかし現代では、ある程度開発は終わっていて、そのような状況は考えづらい。

6期は第54話「泥田坊と命と大地」にて泥田坊が登場 ©水木プロ・東映アニメーション

 いい例が、田んぼに住む妖怪の泥田坊ですね。原作では、泥田坊は開発ですみかを奪われて、「田を返せ」と言って暴れていたのですが、今回のアニメでは、田んぼだったところがゴルフ場になって、そのあとメガソーラー発電所になって……と、社会の変化によってどんどん使われ方が変わっている。でも、泥田坊が出てきて「田を返せ」と言うところは変わっていない。

 ――鬼太郎をはじめとするメインキャラクターたちの性格も若干変化しているように見受けられます。

 大野木 これまでの鬼太郎は、熱血ヒーローとして描かれがちだったのですが、今回の鬼太郎はやや冷めているというか、一歩引いたところで物事を見ています。これまでは、鬼太郎が常に人間の味方だったから、熱血ヒーローたり得たのですが、今回の鬼太郎は、人間と妖怪の間に立つ者として描きたかった。なので、人間の味方をするときもあれば、そうではないときもある。それで一歩引いているキャラクターにしています。

 ねこ娘は頭身を伸ばしましたし。常に〝今風〟は意識していますね。

ねこ娘は8頭身美少女に ©水木プロ・東映アニメーション

 ――電子書籍『ねずみ男大全』の主役であるねずみ男に関してはいかがでしょう?

 大野木 これが面白いことに、他のキャラクターはいじれるのですが、ねずみ男は変えられないんですよね。もちろん、アニメのシリーズや、各話を担当するライターによって微妙な差異はあります。でも、鬼太郎なんかに比べると変更は小さな幅にすぎません。ねずみ男は、やっぱりねずみ男なんです(笑)。ずるくて、金と権力に弱くて、ある時は鬼太郎の大親友、ある時は敵にこびへつらう。この〝どっちつかずな感じ〟をいじると、なんだかねずみ男ではなくなってしまうんです。

ひそかに人気の高いねずみ男。彼を特集した電子書籍『ねずみ男大全』が発売された ©水木プロ・東映アニメーション