3つの展示空間が、数えきれぬほどのヒトガタの絵や彫刻で埋め尽くされている。不気味といえば不気味だけれど、彼らの姿に囲まれていると、どこか懐かしさも感じられてくる……。

 群馬県渋川市の榛名山麓にあるハラ ミュージアム アークでのこと。「加藤泉−LIKE A ROLLING SNOWBALL」展が開催されているのだ。

Photo: Yusuke Sato
Courtesy of the artist and Hara Museum
©️2019 Izumi Kato

「世界の秘密」に迫るために描き続けている

 加藤泉は1990年代からこうしたヒトガタの絵を描くようになり、のちに木、石、ソフトビニールなどを用いた彫刻もつくるようになった。四半世紀にわたって生み出され続けた加藤作品が、同展にはじつに145点も並んだ。壮観のひとことである。

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 制作された時代ごとに多少の特徴はあるけれど、ヒトガタがバストアップや全身像でドンと画面の中央に描かれる基本形は変わらない。同じモチーフを飽きることなくずっと造形していく原動力は、いったいどこからくるのかと不思議になる。

Photo: Yusuke Sato
Courtesy of the artist and Hara Museum
©️2019 Izumi Kato

 アーティスト自身がその理由を明言することはないけれど、ヒントは本人がかつて発したこんな言葉にあるかもしれない。いわく、

 自分は世界の秘密に興味がある。そこに向けて迫っていけるのが、造形という仕事のおもしろさだ−−。

 と。なるほど加藤泉は日々、繰り返しヒトガタをつくり出すことで、世界の秘密に一歩、また一歩とにじり寄っているのだ。

Photo: Yusuke Sato
Courtesy of the artist and Hara Museum
©️2019 Izumi Kato

 たしかに作品を観る側も、これらヒトガタと対面して、深くて澄んだ色の眼を覗き込んでいると、ああ生命って何だろう、そして人とはどんな存在か。わたしたちはどこから来て、どちらに進んでいくのか? そんな考えが頭の中を巡って止まらなくなってしまうのである。

Photo: Yusuke Sato
Courtesy of the artist and Hara Museum
©️2019 Izumi Kato