出資したから頑張って広めているわけではない
山口 今回のクラウドファンディングでは、出資した制作支援メンバーの動きもさまざまで、Twitterなどで積極的に情報発信を行っている人もいる一方、出資した以外には特に何もせず、作品のエンドロールへの氏名の掲載を選択しなかった人もいるわけですが、皆さんはいかがでしたか。
藤村 公開前にメッセージカードが送られてきたので、直後のコミティアで私のスペースに寄ってくださった方に配りました。あと私が京都でトークライブをする機会があって、来てくれた知り合いにも渡しました。それ以外では10枚ぐらい束にして実家の親に「どこシネマで何日公開だから見ろ」と一筆入れて送ったら盛り上がったらしくて。
山口 やっぱりエンドロールに名前が出るのが効いたということですね。
藤村 すごく効きましたね。私と夫の名前も出ると言ったら「それすごいことじゃない」って盛り上がって、原作漫画を買い、この間の正月に帰ったらまだ映画も見てないのに公式アートブックがあって、さらに親戚や母の友人に「うちの娘が監督と友だちなのよ」とか言っている(笑)。
山口 話に尾ひれがつきまくってる(笑)。
藤村 それはやめてくれと止めましたけど(笑)。そういえば「お金を出したうえにさらに(メッセージカードを)配らされているっておかしくないですか」って言われたこともありました。
山口 僕も何人かに配りましたけど、言われてみればそうですね。自然すぎて考えもしなかった(笑)。ほんとだ、なぜ気づかなかったんだろう。
いしたに 自然と宣伝に巻き込むやり方がうまいですよね。ああ、この手があったんだと思いました。結局お金を出す人っていうのはファンであるから出しているわけですし。
山口 強制ではなく、あくまでツールとして(メッセージカードを)提供するという。使うかどうかは個人の自由。
いしたに そうそう。よろしければ使ってください、という。まあ、よろしければにしては随分枚数が多いなとは思いましたけど(笑)。
松島 ぼくは出資をしたきり、定期的に届く(製作委員会からの)メールすら読んでいなくて、なので公開が決まったのも普通にニュースで知りました。そのうちに周りが気になっていると言い出したので、すごくいい作品になっているはずだからぜひ観に行って、あとエンドロールにぼくの名前が載っているはずだから探してみて、とか言っていたんですけど、でもそのぐらいです。
山口 周りに言ったというのは、SNSとかで発信されていたんですか?
松島 誰かがSNSで「この映画が気になっている」とか「売れているらしい」って書いていたら、そこにコメントをつけていました。自分から発信することはなかったです(笑)。あと、両親に言ったら観に行ってくれて、母が「息子がこの映画のほんの片隅に関わったようで」と自分のブログに書いたりしていましたけど、ぼく自身はもう何もしてなくて。
いしたに 僕はYahoo!ニュースのエンタメ担当でもあるので、最初のクラウドファンディングの時に書こうと思ったんですけど、一般向けじゃないと思ってやめたんですよ。実は僕もメールを最初スルーしていて、ハガキが来た頃からだんだん気になり始めて、そのうち仕事で広島に行くことがあって、ちょうど呉市立美術館で(『こうの史代「この世界の片隅に」展』を)やっていたので、これは行かねばなるまいと。
山口 時期で言うと、公開の数ヶ月前ですね。
いしたに そうです。だから僕は映画公開前にコンテを全部見ている(笑)。もともと呉という街自体に興味があったのと、あと僕はいわゆる聖地巡礼って自分にとってのテーマなので、呉の街をぶらぶら歩いているうちになぜ舞台が呉だったかが分かってきて、それをブログに書いたら映画の公式Twitterが拾ってくれたりもしたんですけど、当時は反応は正直薄かったですね。作品を以前から知っているか、呉そのものに興味がある人だけ。
山口 確かに、その頃は限られた人だけが話題にしている状態でしたよね。公開後の現在はいろんな人がTwitterに感想をアップして、それを公式Twitterや片渕監督がリツイートする図式ができていますけど、それとは別に、Facebookなどでの表から見えないやり取りはいまも相当あるのかなという気はしますね。さっきの松島さんのように、コメントだけつけている例もある。
いしたに そうなんですよ。割と会話が閉じているんですよね。
山口 僕も、完成作を観て本当におすすめできると分かってからTwitterでも話題にし始めましたけど、公開前はクローズドなところでしか発言していなかったですね。自分が出資したから無理に宣伝しているように思われたくないというのがあって。
いしたに それはありますね。最後の完成品が映画なので、映画を実際に自分が見るまではあんまり口をきけないというのはありましたね。
藤村 マニアが出資して、その人たちが頑張って広めているんだろうと思われるのはすごく嫌でしたね。冷めた目で見ても、これはいい映画ですよ、みたいなぐらいの距離感を持ちたいと思っていて、だから公開直後は「観に行きました。皆さんもよければどうぞ」ぐらいしか言わなかった。
松島 あまり意識してなかったんですけど、僕も今回出資したからあまり言えなくなった、というのはあったかもしれないと思います。