「モノが届いて終わり」のクラウドファンディングとの違い
山口 ところで、クラウドファンディングの第2弾(編注:世界15ヶ国での上映にあたり片渕監督を現地に送り出すための渡航費用・滞在費用を支援するプロジェクト。支援者へのリターンには海外渡航報告会イベントの参加権またはレポートが用意されている)は、皆さん参加されました?
いしたに 僕は参加していないです。
藤村 私も参加しなかったです。途中で片渕監督がもうこれ以上は結構ですっておっしゃったので、監督の意に沿わないんだったらいいやって思って。その分劇場に映画を見に行こうと。
いしたに クラウドファンディングのそもそもの成り立ち方と合ってないんですよ。まだ評価が定まっていないからお金がつかないものに対してベットするか否かなので、評価が定まった作品に追加するというのは、クラウドファンディングの思想的にはなしなんですよ。
山口 確かに、第2弾のクラウドファンディングを見ていると、中の人もまだクラウドファンディングの使い方や意義をよく分かっていない気がして、ちょっと不安ではありますよね。少なくとも、最初のクラウドファンディングに比べるとかなり異質に感じますし。
いしたに そもそもクラウドファンディングは、どうなるか分からないけどお前のこのアイデアは面白いから出すっていうのがベースで、おまけは本当におまけなんですよ。だから物が届かないと怒っている人がよくいるんですけど、当たり前なんですよ。僕は一番届かなかったやつは4年届かなかったのがありますから(笑)。
山口 僕も出資して届かないまま2年を迎えようとしている品物がありますね(笑)。松島さんはクラウドファンディングは何かほかにされています?
松島 今回が初めてでしたね。自分が出資するというのはどういうことなのかを考えたのも初めての体験でしたし。結局考えたのは、これは応援のためのものであって、リターンは本当におまけであると。いしたにさんがおっしゃっていたとおりですね。その作品に対して自分が影響を及ぼしたいわけではなくて、出資したあとはずっと見守っていようという感じですね。
いしたに 自分の意見を出したいんだったら1万円では足りなくて、あとたぶん3桁ぐらい足りないんですよ(笑)。スポンサーになりなさいっていう。
山口 もうコースですらない(笑)。個人的には、へんなスポンサーがついて作り手の意に沿わないストーリー展開やキャスティングをねじ込んでくるのを回避できるならもっと出資してもいいなと思いますけど、プラス3桁は無理(笑)。
藤村 私は周りにクラウドファンディングをやっている方がたくさんいて、成功例も失敗例も見てきたので、それほどクラウドファンディングに期待をしていなかったんですよ。ただ今回は額はそれほど大きくなく、しかも募集の時点で成否にかかわらず映画は作ると書いてあったので、そんなに迷わなかった。出来上がってみんなで見る映画と、物自体が届くというのはちょっと毛色が違うと思うので。だから次、これにお金を出してみようというのは、今のところないですね。
そういえば、さっきもお話した、『この世界の片隅に』を知らずに舞台挨拶回に来ていたお二人の女性が、「これクラウドファンディングでやったって聞いたのだけど」「出資すると鑑賞券がもらえたり、ヒットしたらお金がいっぱいもらえたりするのよ」みたいなことを言っていて、そんなふうに思われているんだと思って(笑)。
山口 (笑)。でも確かに、クラウドファンディングが映画に貢献したと報じられても、どんな役割を果たしたのか分からないですよね。この4人ですら向き合い方はバラバラですし、仮にほかの制作支援メンバーを呼んで同じような座談会をやったら、たぶんぜんぜん違う話になるはず。そういう、出資者それぞれが自由なスタンスで作品と向き合えたのが、モノが届いて終わりのクラウドファンディングとは違う、「この世界の片隅に」におけるクラウドファンディング体験の特徴だったのかなと思いますね。
いしたにまさき
ブロガー、ライター、内閣広報室IT広報アドバイザー。2002年メディア芸術祭、2011年アルファブロガー・アワード受賞。「ひらくPCバッグ」で2016年グッドデザイン賞受賞。
ブログ:https://mitaimon.com/
Twitter:@masakiishitani
藤村阿智
イラストレーター、ライター、同人作家。現在「旬刊経理情報」で文房具コラム連載中。
創作同人誌即売会「コミティア」参加歴12年。
サイト:http://www.blackstrawberry.net/
Twitter:@AchiFujimura
松島智
別府移住を目論む温泉好きのウェブデザイナー。パートはボーカル。読まれるもののデザインが好きで、電子書籍をウェブに埋め込んで公開できるフリーソフト「BiB/i」ほかで受賞も。
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山口真弘
ライター。電子書籍端末のほかPC周辺機器・サービスなどをIT関連のレビューを手掛ける。文春オンラインではPC・スマホを中心としたハウツー記事を連載中。
Twitter:@kizuki_jpn
映画作品以外の写真=松本輝一/文藝春秋