『文春砲 スクープはいかにして生まれるのか?』(週刊文春編集部 著/角川新書)

「週刊文春」取材の裏側を、解説と再現ドキュメントで公開する『文春砲 スクープはいかにして生まれるのか?』(角川新書)が刊行されました。発売を記念し、「Scoop1 “スキャンダル処女”ベッキー禁断愛の場合」の章を公開します。“文春砲”という言葉が広く知られるきっかけとなり、第23回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」を受賞したスクープ。その舞台裏にあったものとは――。(全4回)

※前回までの記事はこちら→#1

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情報収集の重要性

 渡邉と棚橋との打ち合わせでは、芸能歴の長いベッキーがすでに相当マスコミを警戒していることが懸念された。一週間前のクリスマスイブ、十二月二十四日にも二人は幕張のホテルで一夜を過ごしていたが、そのときも時間差をつけてホテルに入っていた。

 長崎で泊まるホテルも見当はついていたが、警戒する二人が別々の部屋に泊まり、ホテルを出る時間をずらされた場合などは決定打となる写真は撮りにくいだろう。むしろホテルを出てから外出先で合流するときが直撃の狙い目になるかもしれない。観光スポットが多い長崎で二人はどこへ行くのか。そのシミュレーションは重要な意味をもっていた。

 棚橋と大山は、それぞれベッキーと川谷の情報を可能な限り集めた。ツイッターやインスタグラム、ブログにこれまでどんなことを書いていたかも遡(さかのぼ)りながら読んでいった。ベッキーがもともと「ゲスの極み」のファンだったことを確認したのはもちろん、二人の趣味や嗜好(しこう)もできるだけ頭に入れた。

 ツテのあるテレビ局関係者や音楽関係者に電話をかけ、二人のことを探っているのを悟られないように気をつけながら、何か着目すべき点はないか聞き出そうともした。

 もし、川谷がベッキーを実家に連れて行ったならば、川谷の親がどんな反応をみせるかも気になるところだ。関係者の間でも伏せられていたが、川谷は前年の夏に結婚したばかりで、川谷の両親がそれを知らないわけはない。川谷の父にはミーハー的な部分があるようだったので、そのこともどこかで影響するかもしれない。

 この日の夜のうちに、先発隊からは長崎で撮った写真が送られてきた。

 二人が同じホテルから出ていく写真だった。だが、二人は時間差をつけて出入りしていたので、ツーショットにはなっていなかった。予想されていたことである。二人が同じホテルに泊まっていることが確認できただけでも意味があった。

 しかし、ホテルの中は無理だ。外出先で二人が合流したところを直撃できるかどうか。勝負はそこに懸かっていた。

記者とLINE

 翌一月四日早朝。

 長崎に向かうべく大山が慌ただしく身支度をしていると、携帯電話が鳴った。先発隊の記者で、まだ若い福地(ふくち)からの連絡だった。

「すみません、昨日の夜、深追いしすぎて、顔を見られたかもしれません」

 動揺を隠しきれない声だった。

「見られたって、面識あるの?」

「ないです」

「怪しまれるほど、挙動不審だったわけではないんでしょ?」

「……まあ、そうですけど」

「だったら大丈夫。終わったことは忘れて、先のことをシミュレーションして」

「わかりました」

 福地と電話で話したことで少し不安になった大山も家を出て、空港に向かった。

©iStock.com

 最後に長崎に着いた大山は先発隊とは合流せず、ひとまず空港で待機した。ベッキーや川谷が東京に戻ろうとした場合に空港で直撃するためだ。

 そこで大山は携帯電話を取り出し、LINEを開いた。

 このスクープではベッキーと川谷によるLINEのやり取りがポイントになっていたが、週刊文春の記者たちもLINEでやり取りをすることが多い。本取材班のように大人数のチームを組んだ場合は特に、チームでグループLINEをつくってメッセージのやり取りをすれば情報を素早く共有できるので便利だ。

 その際、ベッキーや川谷といった名前は使わないようにしている。「女」「男」などと書き、情報が洩れないようにしているのだ。

 福地からのメッセージにはこう書かれていた。

〈基本女を逃がさないよう布陣を敷きます〉

 それに対して東京の棚橋はこう返す。

〈基本女の行動を見逃さないようにしてもらえたらと〉

 福地たちは現地で二台のレンタカーを借り、ベッキーと川谷がホテルを出たあとを追うことにしていた。棚橋の指示もあり、たとえ川谷を追えなくなってもベッキーのあとを確実に追う方針だった。