痛恨のロスト
二人が泊まっているホテルにはまず一台の乗用車がやってきた。車からは初老の男性が降りてきたので、川谷の父親だろうと想像された。その見立ては当たっていたようで、チェックアウトした川谷を乗せてホテルをあとにした。
その五分ほどあとにチェックアウトしたベッキーはタクシーに乗ってホテルを出た。
難しい選択だったが、先に出た川谷の父親の車は追わずに見送った。あとからベッキーが出てくるのは間違いないので、二台のレンタカーでベッキーを追うことに決めたのだ。それぞれのレンタカーでそれぞれの車を追う手もあったが、一台だけで追えば、見失う可能性が高くなる。その事態を避けるためにもベッキーにマークを絞ったわけだ。棚橋の指示だった。
だが、そこで経験不足が出てしまった。ベッキーを乗せたタクシーが他の車があまり走っていない田舎道を進んでいったこともあり、あとを追っているのを気づかれないように車間距離をあけていたのが裏目に出たのだ。
ベッキーのタクシーを二台のレンタカーで追いながらも、そのどちらもがベッキーを見失ってしまった。
〈すみません、ベタ付きで追わず失態を犯しました〉
福地がLINEにそう書いてきたのを見て、棚橋と大山は頭を抱えた。
これで大山はますます空港を離れにくくなった。二人のうち、とくにベッキーは東京に引き上げる可能性が強くなったからだ。
(#3に続く)
本書の再現ドキュメントの元になったのは、株式会社ドワンゴが取材・制作した「ドキュメンタリードラマ『直撃せよ!~2016年文春砲の裏側~』」。ニコニコ動画で公開中。
※こちらは予告編です。