忙しくても1分で名著に出会える『1分書評』をお届けします。
今日は俵万智さん。

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「未来の幸せのために今の幸せを我慢すれば、さらなる我慢が待っているだけ」「そんなに速くできたのなら、余った時間にもう一枚プリントやったら! それを聞いて子どもは15分でできる宿題を30分かけるようになる」

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 陰山先生の、こんなツイートを読んでは、ふむふむと頷き、そうだそうだと膝をたたき、ギャー私もやっていると頭を抱え……てきた。

 子育ての基本的な心構えから、かなり実用的な学習方法まで。縦横無尽なツイートのファンだったので、それらをまとめ、さらに深く語られている本書は、私にとって待望の一冊だ。

 ささやかな体験談を書くと、息子が小学6年生のとき、陰山先生のこんなツイートに出会った。「イージーミスは、不注意やリラックスが原因ではない。原因の第一は実力不足。第二は見直し能力の不足。」

 算数の計算ミスと、国語の漢字の間違いが、やたら多い息子。でも、計算は落ち着いてやればできるし、漢字も間違うたびにおさらいすれば大丈夫だろう。実力はあるのに、点数にならなくてがっかりしては可哀想だ。むしろ「やればできるんだから、次からは気をつければいいよ」なんてフォローしていた。

 しかし、そうではなかったのだ。ケアレスミスが出るということは、そもそも力が定着していないことの証なのだった。試しに小学3年生からの漢字を書かせてみたら、書けないものがボロボロある。さすがにショックを受けている息子とも相談し、陰山先生の『徹底反復 漢字プリント』を毎日やることにした(かなりの信者)。算数は、朝の読書ならぬ「朝の10分計算」と称して、単純な計算問題を、これまた4年生ぐらいのレベルから。これだけのことで、テストの点数はぐんと上がったし、何より中学生になる前に気づけてよかったと、つくづく思った。

 これは学習に即したツイートの例だが、本書のメインは、タイトル通り。子育ての基本をずばり言い表した名言だ。子ども時代に、思いきり幸せな気持ちを味わえれば、心が安定した人間に育つ。多少悪いことが起きても、あわてないし、自己肯定感も高くなる。その土台があれば、子どもは伸びてゆける。

 そのためには、まず母親が笑顔で幸せでいなくては、という考えにも大いに共感した。そしてそれは、意外と簡単なこと。なぜなら子ども自体が、もっともシンプルで豊かな幸せの種なのだから。

俵 万智(たわら・まち)

俵 万智

1962年、大阪府門真市生まれ。早稲田大学文学部卒。1986年、『八月の朝』で角川短歌賞受賞。1988年、『サラダ記念日』で現代歌人協会賞受賞。2004年、評論『愛する源氏物語』で紫式部文学賞を受賞。2006年、『プーさんの鼻』で若山牧水賞受賞。その他の歌集に『オレがマリオ』、エッセイ集に『旅の人、島の人』など。石垣島在住。