1ページ目から読む
3/3ページ目

「笑ってあげよう」と思わせたらアウト

 しかし、企画を思いついてそれにGOサインが出たからといって、実際に実現させるためには相当な覚悟が必要だったはずだ。だが、日比野は、「そんなになかったですよ」とあっさりと言う。

 

「誤解されるんじゃないかというような不安や恐怖はないことはなかったけど、それよりも、やってみたいという好奇心のほうが勝ってた。だって、日本のテレビ番組史上、きっと誰もやったことないことだから。それは、テレビマンとしてやってみたいジャンルである。悔しがる連中は絶対いるはずだというのもある。そして、それは実は僕たちしかできない、という自負もある。

 僕もテレビっ子で『オレたちひょうきん族』や『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』とか『進め!電波少年』とかをずっと見てきたから、できるだけ冒険的なものをやりたいと思ってきた。いつでも自分のやりたいことをやりたいという気持ちで、番組って楽しんでなんぼという感じを持ってやってきているので」

ADVERTISEMENT

 たとえば、障害者たちが漫才やコントで競う企画「SHOW-1 グランプリ」が顕著だが、視聴者に「障害者ががんばってるんだから、笑ってあげよう」などと思わせてしまったら、絶対にダメだ。だから、ある意味でこの企画で芸を見せるのは、普通のお笑い番組以上にハードルが高い。

 

「だから、多分『SHOW-1グランプリ』に出ている連中からすると、本当に障害者に一番厳しい人って日比野じゃないかってみんな思っていると思う。『あのプロデューサー、ホントに障害者に厳しいよね』みたいな(笑)。『これじゃ駄目だ。もっとこうしたほうがいい、もっとこうしたほうがいい』ってギリギリまでダメ出しをスゴいするから。彼らはいろんな障害があるので、その中には、変更が苦手な人たちもいるんですよ。最初に決めた通りにやりたいんだけど、台詞回しをちょっと変えるだけでも、それはそれで大変なわけです。でも、例えば『M-1グランプリ』とか、出たくても出られない芸人たちがたくさんいるわけですよ。そういう人たちの世界が一方であって、ある意味でそこからは排除されている彼らにとって、ここは1つの場なんです。そこでクオリティーを下げると次の『SHOW-1』がなくなるよ、と。『SHOW-1』って結局障害者ががんばってお笑いをしている姿を見て、笑ってあげる番組になったらアウトだから、それはディレクターも一生懸命やってくれた。最初の原型の台本から、そこからすごい練習と、ブラッシュアップは欠かさずにずっとやってましたよね」

「最強ヘルパー養成塾」の回 ©NHK

生放送で寝たきり芸人を「放置」した理由

『24時間テレビ』の真裏で生放送した「感動ポルノ」批判の回では、スタジオに寝たきり芸人「あそどっぐ」がカッパの格好で、一言も喋らず、司会者たちからも何の説明もなく、ただそこにいるだけという演出をあえて行った。

2016年8月28日に生放送された「検証!『障害者×感動』の方程式」。後ろにいるのが寝たきり芸人「あそどっぐ」 ©NHK

「寝たきりだけど、彼はプロの芸人だから、なんでもやるし身体も張ると本人も言うんです。じゃあ、寝たきりの人を生放送でずっと一言もしゃべらせずに放置するのはテレビ史上絶対にないからやってみようと。テレビのおもしろさって何かっていうと、『何だろう。どうなるんだろう。あいつは何だろう』っていうようなザワザワした感じだと思うんです。『あの寝たきりは何だろう?』と思わせたほうが、やっぱり、見ている人も関わろうとする。自分から調べてくれるじゃないですか。あの放送の後、Yahoo!の検索で『バリバラ』と入れたら第2検索ワードに『カッパ』って出るようになりましたから(笑)。

 ちょっとそういう悪戯をやってみたかっただけっていうのもあるんですけど、そこには1つ、やっぱり大きな意味があって。『障害者って何だろう?』って、知らない人が考えてくれる、そこが一番大切だと思っているんです。感動しなくたって障害者ってそこにいるわけですよ。面白くもあったり、訳分からなかったり、いろんな部分があって、今までの自分が持っていた障害者像を壊してもらう装置としては抜群な装置なんですよね。

 僕らはほんとに疑問形でいいと思っているんです。答えを出すつもりは全くないので。障害者問題って答えがない問題なので、それぞれが考えなきゃいけない。われわれが伝えたいのは、障害者をはじめとするマイノリティの人たちは、決して自分たちと別世界にいるんじゃなくて、同じ世界にいる人たちなんだということなんです」

 

ひびの・かずまさ/1964年、京都府出身。1990年にNHK入局。現在、NHKプラネット近畿総支社番組制作センター統括部長。『バリバラ』制作者として放送文化基金賞、日本賞ノミネート、ギャラクシー賞奨励賞を受賞しており、今も『バリバラ』の制作に関わっている。

写真=石川啓次/文藝春秋