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『掟上今日子の備忘録』を書く前に『古畑任三郎』を全部見直した

――野木さんはキャスティングとかには関わったりするんですか?

野木 相談は受けます。百合ちゃん(石田ゆり子)は、言い出しっぺは私なんです。あの役って難しいんですよね。芯は強いけど愛すべきアラフィフで、恋愛シーンも見たいと思える人。石田さん、とても素敵でかわいかったですよねえ。

――抜群でしたね! 『情熱大陸』とか毎回、他の番組をパロディーにする演出も楽しかったんですけど、特に『真田丸』をやったのには驚きました。

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野木 原作の最終回のネームをもらったら『真田丸』パロディーが出てきたんです。海野(つなみ)先生が『真田丸』を好きで。で、私も好きだったし、三谷(幸喜)さんも好きなので、じゃあやっちゃう?と。ドラマでドラマのパロディーをするのってあまりよろしくない気もするんだけど、「三谷幸喜」なら、存在がもうレジェンドみたいなものだから、いいんじゃないかなって。あれが単なる流行りドラマのパロディーだったなら、きっとダメだと思うんですけどね。

三谷幸喜 ©杉山拓也/文藝春秋

――しかも「大河ドラマ」というブランドもありますしね。三谷さんの作品もお好きなんですか?

野木 もちろん。学生時代に映画の『12人の優しい日本人』を見た時に、なんて面白いんだろうと思って。元ネタの『十二人の怒れる男』と続けて見ると、より楽しめますよ。『王様のレストラン』もDVDを持ってるし、『掟上今日子の備忘録』を書く前に『古畑任三郎』を全部見直したら、やっぱり天才だなって思いましたね。昔も確かに面白いなと思って見ていたんだけど、今見ると、よりそのすごさが分かる。トリックが無茶な回もあるんですけど、そういうことではなく、人間の生きざまみたいなこととか、タネの明かし方とか、出し方とか、セリフのシャレっぷりとか本当にスゴい。それがいやらしくないんですよね。壺の回があるんですけど……。

――加藤治子さんの回でしたっけ?

野木 あ、その回は加藤さんが脚本家の役で「今のドラマはしゃべり過ぎよ」っていう決めゼリフにも痺れたんですけど(第2シーズン「偽善の報酬」)、そっちの壺ではなく陶芸家の話の……。

――歌舞伎役者の澤村藤十郎さんが犯人役(第2シーズン「動機の鑑定」)の。

野木 それです。ネタバレになりますが、あれ最後に彼が偽物ではなく本物の壺を割っているんですよね。その理由が、「だって、(偽物の壺は)彼が僕のためだけに作った壺ですよ」ってところが、もう本当に痺れる。なんてかっこいいんだと思って。登場人物たちの美学を内包した面白さがある。私、『合い言葉は勇気』も好きで。『やっぱり猫が好き』も好きでした。欠かさず見てました。

――『やっぱり猫が好き』は、脚本が三谷さんだと意識して見ていたんですか?

野木 当時はたぶん分かってなかったんじゃないかな。そういうのありますよね。『相棒』でも、好きで録って残していた回がほぼ古沢良太さん脚本回だったことに後で気づいたことがあります。あと、脚本で言うと岡田惠和さんも好きです。

岡田惠和版『アルジャーノンに花束を』は傑作ですよ

――『逃げ恥』の時に、僕はちょっと岡田惠和さんのにおいを感じたんです。すごい『彼女たちの時代』が大好きで。

野木 ああ、面白かったですよね。

――モノローグの使い方とかで『彼女たちの時代』を思い出して。

野木 そうなんですか? モノローグ、覚えてないな(笑)。私は岡田さんは、ダイアローグの優れた人だと思っていて。『ランデヴー』はモノローグがなくて、田中美佐子さんと桃井かおりさんのダブル主演で、ひと夏の物語なんですけど、延々二人で喋ってるだけなのに、今見ても本当に面白いです。この人はどうしてこんなに女心をリアルに描けるんだろうってすごい謎。後で気づいたんですが、その時のメインディレクターが『空飛ぶ広報室』『重版出来!』をやった土井(裕泰)さんで、サードに『逃げ恥』メインディレクターの金子(文紀)さんも入っていて、それが金子さんのデビュー作だったんですって!

――つながってるんですね!

野木 それを聞いた時は大興奮でした。「マジですかー!」って。

『ランデヴー』

――岡田作品でいうと他はどんな作品がお好きですか?

野木 岡田さんのドラマは、『最後から二番目の恋』も好きだったし、『泣くな、はらちゃん』も好きだった。

 あと、脚色もたくさんされてるじゃないですか。ユースケ(・サンタマリア)さんと菅野美穂さんの『アルジャーノンに花束を』は傑作ですよ! もともと私、『アルジャーノン』の小説を高校の時に読んでいて、それがドラマ化されるっていうので、「あの小説をドラマ化? なに言っちゃってんの?」ぐらいに思っていたんですけど(笑)、見たらもう面白くて、夢中になりましたよね。今見直すと、1話で完璧なセッティングがなされているんです。この後の不安とか、すべての始まりを示唆していて、導入として、もう完璧! 脚色ってこうあるべきのお手本というか。あれは原作がああいう小説だからこそ飛躍できたものだとは思うんですけど、最終回まで本当によくできてる。

 岡田さんの『小公女セイラ』も好きです。なんで今さら『小公女セイラ』?と思ったし、初回からネズミのCG出てくるし、大丈夫かこれ、と思ったんですけど(笑)、あれもよくできてたんですよ。磯山(晶)さんがプロデューサーで。私、磯山さんがプロデュースしたドラマで面白くないと思ったものはないというぐらいなんですが、『小公女セイラ』も、今どきこんな不幸なイジメものどうするの?って思ったら、見ていくうちに、実は現代的で大人なテーマを込めたドラマだと分かって。途中の初々しいラブロマンスもよくて、さすがと思いました。

『銭ゲバ』も面白かったなあ。今こそああいうのをやってほしいですよね。冒険作でしたよね。いい意味で過激で。

――よくできたなって思いました。

野木 ビックリしましたよね。あれもまた始まった時は「これ大丈夫か?」って思ったのが、結局すごく引き込まれました。最終回がまたすごくて。面白かったです。