「テレビはつまらない」「テレビ離れ」など、テレビにまつわる話にはネガティブなものが多い。

 しかし、いまなお、テレビは面白い!

 そんな話をテレビを愛する「テレビっ子」たちから聞いてみたいというシリーズ連載の2回目のゲストはドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の大ヒットが記憶に新しい脚本家の野木亜紀子さん。

ADVERTISEMENT

 3回にわたり話を伺った最終回は、連続ドラマを作る“チーム”について。そしてその魅力などについて伺った。(インタビューの1回目2回目から続く)

『空飛ぶ広報室』より

幸せな熱さを持てるチーム、信用できる座組み

――もともと演出志望で日本映画学校に入られたそうですが、いま、監督をやりたいとかっていう気持ちは?

野木 もう全くないです。だって、すごい演出家の人がたくさんいて、そういう人が演出してくれたものを見ると「ああ、これは思いつかなかった」とか「あ、こう撮るのか」とか、感動するんですよね。そうしたら、信用できる優秀な監督と組めばいい話で、そのほうが私が撮るよりよっぽどいいものができるわけだから、私は脚本だけでいいですって。

――かなわないと思っちゃう?

野木 かなわない。私、振り返ってみると、小学生の時は漫画家をかなわないと思ってやめたとか、中学の時も演劇はかなわないと思ってやめたとか、かなわないと思うと早いですね。

――それは批評能力というか客観視する目がすごくあるということだと思うんですけど。

野木 そうなんですかね? なので、いかに信用できる座組で仕事をするか。プロデューサーと演出家と脚本。結局その3人が大事だと思うんです。幸せな熱さを持てる、しかも不健康じゃない関係性。誰かに誰かが逆らえないみたいなことではなく。やっぱりどうやったって1人では作れないので。

――チームなんですね。

野木 そう、チームなんですよ。TBSの『空飛ぶ広報室』からやっている人たちは、みんな大ベテランなのに、私のようなペーペーが生意気な物言いをしようが気にしないんですよ。面白いものができればいいと思っているから、個人の小さなプライドなんか関係ない。よく思うのが、「これ面白くないんじゃない?」という話と、人格否定って全然違う話だよなって。人格否定はしちゃいけないけど、どうしたら面白くなるのかっていうことは、大いに話すべきだし、ケンカしたっていいし、じゃないと面白いものなんて作れないと思うんだけど、それを恐れる人がこの業界にも結構いて、あの人には言えないとか、言わないとか。実際、ちょっと反対意見を言われただけでキレて、人格攻撃で返す人もいますからね(笑)。なので、健全に話し合いができる人たちと仕事ができる幸せは大事にしたいです。

『空飛ぶ広報室』

――そういう意味では最近は立場的にかなりやりやすくはなったんじゃないですか?

野木 そうですね。ただ、今度は、私に否定的なことを言えないと思ってしまう人が現れることが新しい弊害です。それはそれで怖いことで。人それぞれだと思うんですけど、私は言われたいタイプで、独りよがりになったら作品が死んでいくんじゃないかと思ってしまう。言い合える人たちが作っている作品と、誰か一人の言いなりで作ってる作品って違いが出るように思うし、視聴者にはバレちゃうと思うんですよね。なので、同じ方向を見てフラットにものづくりができる関係をいかに作っていくかが重要だと思っています。例えば映画であれば、天才的な一人の監督の力で作品をけん引することも可能かもしれないけど、テレビドラマは演出家が複数名だったり即時的に作っていかなきゃならない面があるから、どうしてもそうはなりにくい。やっぱりチームの総合力が物をいうと思います。

「津崎、メガネを上げ直す。」は全部ト書きで入れました

――脚本を書いて、実際に映像を見て、「すごい!」ってなったことってありますか?

野木 もちろんあります。それがないと面白くないというか。演者さんと演出の力と、撮影や美術や音楽やいろんな力が合わさって面白くなっていく感じが、すごく楽しいですよね。

――役者さんですごいなと思った人はいますか。

野木 皆さんすごいですよ。みんな好きなので、誰か一人は言い難いです。

――たとえば、『逃げ恥』の星野源さんはどうでした?

野木 いつも唸りながら見てましたね。「うまいなぁ」と思って。予想を超えた細かく面白い芝居を入れてきてくれていたので。すごく意図をつかんでやってくださってるなって。星野さんも原作の平匡と実は結構違うんですよね。今回ドラマで目指したのは、大谷(亮平)さん演じる男くさいタイプの風見に対し、引け目を感じてしまう男子、みたいなところと、原作の平匡はクールなイケメンで動揺が表に出ないタイプなんですが、ドラマで星野源が演じるのなら、動揺がにじみ出てしまう方が面白いよね、と思って。やっぱりコメディーってそういうことなので、よりコメディーに落とすべく脚本は書いていたんですけど、その辺を見事にすくってくれて。やりすぎないところで演じてくれていました。コントになりすぎず、ドラマの役の中で演じてくれていて、毎回感心して見てましたね。

――平匡役の星野さんがよく手でメガネを上げる仕草をしてましたよね。あのタイミングなんかも絶妙に入れてくれたんですか?

野木 ああ、あれは脚本にト書きで入れてました。平匡さんが本音を言ってなかったり慌てる場面で、自分を落ち着かせたりごまかしたりするタイミングに全部「津崎、メガネを上げ直す。」と。演出で増えた箇所も幾つかあったかも。

©時事通信社