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「モザイクの向こう側はグレーの世界でした」筑駒卒のAV男優・森林原人が思い出す“あの日ヤクザに言われたこと”

名門校のアウトロー卒業生――森林原人 #3

2019/12/15

「AV男優でも気にしないよ」と言ってくれた女性

 そうして通い始めた専門学校で、森林は生まれてはじめて「結婚したい」と思える相手と出会った。「その子も実はソープ嬢をやっていたことがあって。だから僕がAV男優でも気にしないよ、って言ってくれたんです。でも、向こうの親が、男優とは絶対に結婚させない、と」

 

 そこで再び、森林の気持ちは揺らいだ。「AV女優が辞めるきっかけって、実は結婚が多いんですよ。だから僕も、結婚で男優を辞めるっていうのが、人生を変えていくきっかけになるんじゃないかな、とも思って」。だが、そんな気持ちを自分の両親に伝えると、意外な反応が返ってきた。「母親がちょっとムッとしながら、『自分の親が辞めろって言っても辞めなかったのに、他人の親が言ったら辞めるのか』って言ったんです。『10年近くやってきて、プライドはないのか』と」

 その言葉で、森林はようやく男優で生きていく決心が固まったという。結局、その相手とは別れることになった。そして40歳になる今も、彼は独身のままだ。「それから付き合う子には、男優を辞める気はない、ということを伝えてから付き合うことにしています。年も年なので結婚もしたいし、子供も欲しいんですけどね」

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「男優業には、正直限界を感じているんです」

 20年以上のキャリアを積んだ今、森林は名実ともに一流男優となった。彼はこれまで、「セックスが好きで好きでたまらない僕にとって、この仕事は天職だ」などとも語っている。改めてそのことについて尋ねてみると、「男優はセックスが好きでやってるんだ、って思えた方が、見てる人も気楽に楽しんでもらえると思うので」と答えた。

 

「男優業には、正直限界を感じているんです。もうやり切ったかなって。生まれ変わっても、男優としてのこの20年をもう一度経験したいと思うけど、『この先の20年間も男優以外に考えられません!』とはなっていないのが本音です。セックスは好きだし、現場に行けば楽しいけど、今でも『パンツを脱がせて、股を開かせる瞬間に最高の喜びを感じます』ってわけじゃない」

ヤクザでもカタギでもない「グレーの世界」

 モザイクの向こう側に行ったことで、森林は「グレーの世界で生きること」を、身をもって経験したという。「男優を始めた年に、歌舞伎町の風俗にあえてぼったくられに行ったことがあったんです。それも自傷行為の一つだったのかな。声をかけられた店にそのまま入って、案の定、男に脅されて。7万か8万とられました。そのとき、ヤクザの男から『お兄ちゃん、何の仕事してるの』って聞かれて、『男優です』って答えたんです。そしたら『男優なら風俗なんて来なくていいじゃん。それに、男優ならこっち側の人間だろ』って言われて」

 その瞬間、森林は自分が飛び込んだ世界がどんなところなのか、改めて自覚させられたという。「ヤクザの側にいるなんて1ミリも思ったことがなかったんですけど、僕がやってることってやっぱりヤクザなことなんだな、って。モザイクの向こう側は、合法の世界ではあるんです。でも、人として一線を踏み外しているという意味では、カメラの前でパンツを脱ぐっていうのはヤクザと一緒なんだ、と。そのときに、もうモザイクの向こう側にしか居場所はないんだ、僕はカタギじゃないんだ、って気持ちになったんですね」

 

 しかし、その気持ちはこの5年ほどで、少しずつ変わってきたと森林は語る。「とあることで、警察や弁護士の力を借りることがあったんです。怖い人に絡まれてどうしようもなくなって、相手にしてもらえないだろうなぁと思いながら警察に相談しにいって。そしたら、『男優はヤクザじゃないから我々警察を頼っていいんですよ。弁護士の先生たちだってちゃんと力になってくれるのは、あなたがヤクザじゃないからですよ』と言われたんです」