Q 遺伝子をマッチングする「万博婚」って、アリなんですか?

 2025年の大阪万博誘致のニュースで、優秀な遺伝子をマッチングするお見合い大会みたいな「万博婚」プランが挙がったと知りました。あまりの批判にこれは撤回されたそうですが、ちょっとどうなんだろうと思いました。環境学者としての五箇さんはこのニュース、どう受け止めましたか?(30代・男性)

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A 無駄な恋愛エネルギーを使わないのは「充実した人生」なのでしょうか

 結論から言えば、非現実的なプランだと思います……。

 そもそも、夫婦や恋人の相性の善し悪しを遺伝子で分析できるほどの遺伝子情報が日本やあるいは世界に集積されているという情報は聞いたことがありません。

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 もし、ペアリングの相性を遺伝子で判断するとなると事前に、世界中からラブラブな夫婦と、真逆の仲が悪い夫婦の両方から膨大な量のDNAサンプルを集めて、どの遺伝子が相性の善し悪しを支配しているのかを特定しなくてはなりません。恐らく、肉体から精神に至るまで複雑な相性を支配する遺伝子は一つのはずもなく、これまた膨大な数の遺伝子が関与しているに違いなく、それらの組み合わせ別の相性予測をシミュレートするとなると、相当ハイスペックなスーパーコンピューターが必要になると思われます。

 そうした一連の前提条件を予想するだけでも、実現には相当な時間とコストがかかることは明白で、現段階で遺伝子レベルの相性マッチングという高度な予測技術が、将来的な可能性は別として、今の日本に既に備わっているとは考えにくいです。

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科学的な効率性で割り切れない部分があるからこそ

 技術的な困難さは別として、質問者さまが知りたいのは、恋愛・結婚という「運命の出会い」を、遺伝子という情報物質に基づき無機質に決めることに生物学者(あるいは環境学者)として、どう考えるのか、という点だと思います。本当にそんな技術が実現すれば、無駄に恋愛にエネルギーを消費する必要もなく、次世代の生産性という点では大変効率がいいことだろうと思います。が、生物学者としての意見というより、一人の人間として、機械に決められた相手と結ばれる、ということが果たして「恋愛」として楽しいのかなぁ、と疑問には思います。楽もあれば苦もあるからこそ人生であり、凹む時があるからこそ、成功した時の喜びも一入(ひとしお)なのが人生。「恋愛」は人生のなかでも最大級のチャレンジのひとつであり、そんなチャレンジがない人生が、果たして「充実した人生」といえるのかどうか。科学的な効率性で割り切れない部分があるからこそ、人間らしい人生なのだと思うのです。

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