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賛否両論を巻き起こした超ド級の子育てコミックエッセイ(後編)

『娘が発達障害と診断されて… 母親やめてもいいですか』 (山口かこ 文/にしかわたく 絵)

genre : エンタメ, 読書

将来が心配、でも娘と自分の課題はちがう

――本の前半部分、本当に子育てに努力されてますよね。娘さんの立て続けの要求に対して何でも応えてあげようとしている。発達障害のお子さんを育てることの一番のしんどさはどこにあったのですか?

山口 他のお母さんは多分違うと思うんですけど、私の場合、やっぱり一番辛かったのは、娘が辛い人生しか歩めないんじゃないか、という不安に押しつぶされていたことです。私の性質というか性格が問題だと思うんですけど。うちの娘は、適切な対応をすれば、わりと従順というか問題行動を起こすことはない、いわゆる「受動型」の発達障害なんです。保育園に入る頃には、加配の先生(障害のある子どもに付く専任の保育士)にも良くしていただいたので、日常的な問題はなかった。それでも私が辛さから抜け切れなかったのは、ずっと娘の将来を悲観して、結局、娘に同化しすぎてしまったから。精神科の先生に「課題の分離(自分と相手の課題を分けて考えるアドラー心理学の理論の一つ)ができてない」って言われました。でも本当は、親が子どもの人生を勝手に悲観するというのは、あってはいけないし、娘に対しても失礼なことなんですよね。私の性格上、それは正直今でも続いていて……自分の人生をきちんと生きてないといけないんですけど。物理的には離れて暮らしているし、自分の人生を生きてるじゃないかって突っ込まれるとは思うんですけど、でも精神的には子どもと分離ができてないですね。離れていてもずっと心配はつきまとうし、心配が自分の一部みたいになっちゃってる……。療育時代のママ友と今でも交流がありますが、ずっとママさんバレーやったり、パートに出てそこの仲間と飲み会行ったりとか、自分の人生をすごく楽しく生きてる前向きなお母さんていうのは、子供にもずっと明るく接していられるように見受けられます。

――色々あって、自分と離れた方がこの子のためになるという思いが最後には強くなったんですか?

山口 この本にも書いてあるように、結構本気でそう思ってました。父が早くに亡くなって、母と二人っきりで兄弟がいなくてすごいつまらなかったし、ちょっと引っ込み思案だった。とにかく家族は大勢いる方が後々、人間関係とか色んなことを学べる機会は多くて娘のために良いのではないか、と。

――改めて、娘さんに今、伝えたいことってありますか?

山口 そうですねぇ。娘のいいところを一つずつ伝えていこうというのはずっと思っているんです。それに尽きるかな、しばらくは。例えば娘は努力家だったり、自分で自分のことを結構理解できているし、人に相談することができる。娘のいいところを一つずつ伝えて、会う機会はあんまりないですけど、電話でもメールでも伝えていきたいと思ってます。

――最後に、子育てをして得たものって山口さんにとって何でしょうか?

山口 子育て? 子育てしたんですかね、わたし……。子育てって子どもが大人になるまで長い時間を通して行うものじゃないですか。物理的に毎日のお弁当づくりとか朝起こしてあげるとか、そういうことも含めてやることだから、私は全然子育てしたとは言えないと思うんですね。だから、娘と数年間過ごす中での経験と、離れてからも娘のことを心配したり娘と会って話をして考える中で得たものっていうのであれば、「いろんなことへの執着を手放せた」というのがあります。あれが足りないとかこれが足りないという不平不満があまりなくなりました。昔はちっちゃいことに色々不満を持っていましたが、今は自分のことがいい意味でどうでも良くなった。自分の望みがシンプルになったなという……それは娘が元気で生きていてくれたら、それだけで別になにもいらないなっていう感じです。

山口かこ

 

1975年愛知県生まれ。大学卒業後は不動産会社OLを経て、結婚、出産、広汎性発達障害の娘の育児を体験。その後、持ち前の洞察力と集中力、ディープな人生経験を駆使してライター活動をスタート。福祉、環境、カルチャー、歴史ネタを得意とし、ラジオ、紙媒体、WEBにて取材・構成・執筆を行う。

にしかわたく

 

1969年長崎県生まれ。国分寺市で育つ。大学在学中に『月刊アフタヌーン』で商業誌デビューするも紆余曲折、現在は漫画・イラスト・映画コラムと場当たり的に活動中。著書に『僕と王様』『まーこと裁判所へ行こう!』など。

 

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