前編より続く
「本当の事をさらけ出して書くしかない」という覚悟のもと、苦しみながらの原稿執筆は1年に及んだ。単行本刊行後、その衝撃的な内容は多くの読者の心を突き動かした。発達障害の娘を育てる母に、あのとき、何があったのか。
◆ ◆ ◆
――娘さんは今はもう中学生ですか?
山口 そうです。
――早いですねぇ。もしかしたら、娘さんがこの本を手に取った事があるかもしれないし、これからあるかもしれないですが、お母さんとして、この本を目にしたときの娘さんを想像すると、いかがですか?
山口 ……う~ん、今は読んでほしくないですね。
――もうちょっと、大人になってからですかね。
山口 そうですね。本を出した後の反響の中で、批難ももちろん沢山あったんですけれども、「全部さらけだして書いてくれて嬉しい」というお便りやメールも頂きました。私と同じような立場だったり、お子さんのことで悩んでいるお母さんから「自分の気持ちを全部代弁してもらった」というような。だから、そういうお母さんたちにとっては、私の思いを全部書いたことが良かったのかもしれないと思えるんですけど、お母さんがこういうことまで考えていたんだっていうことを本を読んで全部知ったら、娘はやっぱり傷つくんではないかなって思うと、今の段階では判断がつかないです、正直。
――中学生だと思春期ですか? 接し方も幼い頃と違ってきますか?
山口 そうですねぇ。思春期ってやっぱり障害のないお子さんの場合も悩んだりする時期なので、実はものすごい心配なんですけど……。
――娘さんからお母さんにあんまり話さなくなってきた?
山口 いや、それが逆にないんです。結構なんでも話してくれる。
――え、そうなんですか!
山口 嬉しいことだし幸せなことなんですけど……(自分に言い聞かせるように)幸せなことと思ってた方がいいですよね(笑)? 娘が私に話さなくなってしまったら、それこそ本当に離れて暮らしているから何も分からなくなってしまうので、有りがたいなと思うんですけど。
――この本に対して、他にどういった反響がありましたか?
山口 お手紙を頂いたのは、お父さんとか学校の先生とか、母親以外の立場の方から意外にも結構ありましたね。
――学校の先生からのお手紙というのは、どんな内容でしたか?
山口 ある小学校の先生は、受け持ちの生徒さんの中に障害のあるお子さんがいるんですが、他の先生や周囲の人たち皆から発達障害への理解を得られない状況で頑張っているそうなんです。その子を支援するには、その子の親御さんのメンタル、家庭環境まで意識しなければならないということが本を読んで分かりました、というお便りをもらいました。
――お父さんの立場の方からは?
山口 「妻の大変さが分かった」というような反響でした……ふふふ(笑)。「妻に任せっきりだったけどすごく反省した」と。
――いいですねぇ。
山口 そうですね、すごく嬉しかったです。
――厳しい意見って目立つんだけど、そうじゃなくて本を読んで力を得られる人も絶対いるはずなんですよね。
山口 そうですね。以前、この本の編集者さんに、「特殊な体験でもすごく掘り下げて書けばそこに普遍性がある、誰でも共感する部分が出てくる」ということを言われたんです。
――あぁ、いいことおっしゃるなぁ……。
山口 なるほどなって。だから結局、お子さんがまだいない学生さんとか独身の女性からも、「この本、すごく良かった」というメールや感想をもらったりするんですけど、どこかには共感できる部分があるようなことを言っていただいたりするので、それはその編集者さんがおっしゃる「普遍性がある」ということなのかなぁとは思いますね。