「熊の食べるものならなんでも食べてみる」
個性の話をする猟師は「熊の気持ちになってみんとわからん」とも言う。秋に熊が食べる木の実をなんでも知っている彼は、「この木の実は甘いよ」と味まで教えてくれるので「食べるんですか」と聞くと、「熊の食べるものならなんでも食べてみる」と言う。「『相手の気持ちになってみる』ってことは、人間関係でも大事やな。そういうことを、動物に教えられている」と笑っていた。
管理や操作ではなく「付き合うこと」
かつての「自然と近い」暮らしはもはやユートピアだろう。現在、子熊を拾ってきて育てる猟師はいなくなった。だが、親を失った赤ちゃん熊を野に放つこと(数日で死んでしまう)が「自然保護」かどうかは今でも議論のさなかにある。
半年前までは野生の熊など見たこともなかった私は、熊となると目の色を変え、鉄砲をかついで山を駆け回る猟師たちが、同時にその動物を愛しみ、祀り、その知識と経験をもって人々を守ることもまた目にしてきた。柿や栗の実、ぬか漬けなどは人間だけでなく熊の大好物でもあるため、「食」を介して熊とはち合わせる環境をできる限り作らないこと等、一般的な対策はもちろん必要である。しかし、同時に、彼らからは野生を克服することはできないのだと、最終的には管理や操作ではなく「付き合うこと」なのだと、伝わってくる気もしている。
写真=北川真紀
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