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岩崎恭子41歳が振り返る「今まで生きてきた中で一番幸せです」の呪縛

「バルセロナ後の2年間、あまり記憶がないんです」

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 今年7月、いよいよ東京オリンピックが開幕する。

 そこではわれわれの記憶に残るレース、試合が数多く行われ、その結果、何人かのヒーロー、ヒロインが誕生するだろう。五輪は一夜にしてアスリートの人生を変える力を持っているのだ。

 そのことを日本人で誰よりも実感したのは岩崎恭子かもしれない。

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 それほど岩崎が金メダルを獲得したバルセロナ五輪女子200メートル平泳ぎは衝撃的だった。まったく期待されていなかった無名の少女が、世界が注目する大舞台で自己記録をいきなり4秒以上も縮めた五輪記録で優勝したのだ。鮮烈な“世界デビュー”だった。

岩崎恭子さん ©文藝春秋

「今まで生きてきた中で一番幸せです」

 メダルを受け取った後、目の周りにゴーグルの日焼け跡がくっきりと残る少女は、戸惑った表情でインタビュアーの前に立った。そして、うっすらと涙がにじむ目で声を少し震わせながら「今まで生きてきた中で一番幸せです」と口にする。その瞬間、彼女は「五輪のヒロイン」となり、レース前には想像すらしなかった喧騒の渦に巻き込まれていった。

 だが、彼女にはどこか薄幸の印象がつきまとう。バルセロナで出した自己記録を破れず低迷する成績、アトランタ五輪での敗北、20歳での早すぎる引退、結婚と離婚などプライベートを巡る報道――。

 あれから27年。岩崎恭子は彼女の人生を一変させた予想外の金メダルとどう付き合い、どんな人生を送ってきたのだろうか。「今までで一番の幸せ」はやはりあの瞬間なのだろうか――。

心の負担になっていった“金メダル”

 岩崎恭子は、シフォン素材の花柄のワンピースに身を包み、明るい表情で取材現場に現れた。

「4年に1回の稼ぎどきですから(笑)」

 そう言って場の空気を和らげると、気取ることのない明るい口調で「金メダル」について語り始めた。

バルセロナ五輪での力泳 ©文藝春秋

「やはり金メダルを取ってからかなり悩みましたよ。でもそれをどうやって消化して、自分を認めていくかという経験ができましたから。今はメダルに本当に感謝できるようになったというか。もうだいぶ前からですけど、感謝しかないです」

 そうは言うものの、競泳史上最年少の14歳で金メダルを取った少女には時間が必要だった。オリンピック後の世間の興奮は、確実に心の負担になっていた。