「伸身の新月面が描く放物線は栄光への架橋だ!」
2004年アテネ五輪体操男子団体決勝で日本が28年ぶりの金メダルを獲得した瞬間、実況を担当したNHKの刈屋富士雄アナウンサーが発したこの言葉は、スポーツ実況の歴史の中でも屈指の「名言」として、人々の記憶に残っていることだろう。
刈屋アナウンサーの「あんちょこ」
発売中の「文藝春秋」1月号では、その刈屋アナウンサーと、当の演技者で、当時の体操ニッポン団体のエースだった冨田洋之との「栄光の架橋対談」が実現した。アテネ五輪決勝のあの栄光の瞬間に至るまでの様子を15年ぶりに語りつくしている。
対談に際して、刈屋さんがまず冨田さんに見せたのが下のメモ書き(写真参照)だ。
当時の日本代表全員(米田功、冨田洋之、水島寿思、塚原直也、鹿島丈博、中野大輔)のプロフィールや経歴、それぞれの種目ごとの演技構成などが書かれている。実況の際にはこの「あんちょこ」を敷いて、時々確認しながらアナウンスをしていたのだという。
細かな「戦歴」や選手のコメントまで
「スポーツ実況を担当するアナウンサーなら、大抵こういうものを自分で作るはず。もちろん暗記しているけど、選手の名前は絶対に間違えられないので、必ずひらがなでルビを振っていました」(刈屋氏)
マーカーをカラフルに使い、すべて手書きで、細かな「戦歴」まで書き加えられている。特に目を引くのは、欄外に書かれた選手のコメントだ。例えば、右上の冨田と丸囲みされた部分に書かれたメモには「小学校の頃、ソウルオリンピックをみてオリンピックに憧れました」「シドニー五輪のあと、2001~急成長」「日本が世界に誇るオールラウンダー」などと書かれている。これらの言葉は実際に「団体決勝」の実況で刈屋さんが冨田選手を紹介する時に発した言葉である。
そして、左上のスミに書かれたメモ書きの言葉を、聞いた覚えのある読者も多いのではないだろうか。