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吹いた北風にも揺れない文在寅

 目を引くような政策が語られるわけでもなく特別なビッグイシューもないまま、3週間の圧縮選挙戦はあっという間に終盤に入ろうとしているが、ここにきてにわかに、“北風”(韓国の大統領選挙で勝敗を左右するといわれる北朝鮮情勢など)が吹き、どうなるか注目された。

 盧武鉉元大統領時代、文候補が青瓦台(大統領府)の秘書室長を務めていた2007年11月、国連の北朝鮮人権決議を巡って、事前に北朝鮮に意見伺いをしたという疑惑が浮上したのだ。ちなみにこの時、韓国は決議案を棄権している。

 この疑惑は、当時、外交通商部(日本の外務省にあたる)長官だった宋旻淳氏が昨年10月に出版した回顧録『氷河は動く』の中ですでに暴露していたが、文候補は一貫して否定し続けてきた。ところが21日、宋元長官は韓国の全国紙『中央日報』で当時の文書を公開し、再び疑惑を提示したため、泥沼化している。

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 宋元長官は、中央日報紙上で「ここまでやる考えはなかった。しかし、こんなに明らかな証拠があるのに、文候補は討論会などで否認し続けている。文候補は私の話が誤っているといえばいいものを、事実を丸ごと握りつぶしていいのか。これほど証拠が揃っているのに、どうして歴史に目をつぶることができようか」(4月21日)と再び問題を俎上に載せた理由を語っている。

 前出記者によると、

「この時期になって宋元長官が再び反駁した真の理由はわかりませんが、文候補はいったん違う資料を持ち出して否定しています。ただ、宋元長官の主張とは平行線で、国民がこれにどう反応するか、余波は少なくないと見られましたが、今のところ、文候補の支持率はコンクリートのように動いていません」

文在寅は逃げ切れるか ©共同通信社

洪候補は自伝で躓いた

 また、安候補の支持層が流れたといわれる保守派「自由韓国党」の洪候補にも醜聞が噴き出した。

 こちらは、2005年、自らが執筆した自叙伝の内容から。1972年大学1年生の時に同じ下宿の友人が熱烈に片思いしている女性と同衾したいと言い出し、下宿仲間に性的興奮剤を調達してくれと頼んだ。中のひとりが豚の交配時に使う神経剤を用立てたが失敗に終わったというエピソードで、洪候補が加担したわけではないにしても、これは性的暴行であり、それを面白おかしく書いた道徳観と品性が問われたのだ。

 洪候補はフェイスブックで、「書いた時点で許しを請うた」とさらりと謝罪し、他候補からは「候補辞退」と詰め寄られたが、どこ吹く風だ。興味深いのは、文候補だけ「辞退」という言葉さえ口にしないことで、「洪候補が辞退すれば、その票は確実に安候補に流れますから、自身が逆転負けする怖れがあります。文候補にとって洪候補には最後まで持ちこたえてもらわないといけない」(先の記者)。

“ミラクル”が起こるか

 2002年の大統領選挙では、保守派の李会昌候補の当選が確実視されていた。

 当時、支持率が10%台だった盧武鉉元大統領は選挙をひと月後に控えたタイミングで単一候補となり、支持率を一気に40%台に乗せて争った。しかし、投票日の前日、盧元大統領を支持していた鄭夢準氏が突然不支持を表明。誰もが盧元大統領の敗北を疑わなかったが、蓋を開けるとわずか2ポイント差で勝利した。

 これは、盧元大統領が落選の危機に陥ったと報道されたことで支持者が結束したことが勝利の大きな要因になったといわれた。何がどう作用するか分からないのが韓国大統領選の“ミラクル”だ。

 28日、世論調査会社「韓国ギャラップ」の調査では文40%VS安24%という結果が出た。文候補は1週間で1ポイント下げ、安候補は6ポイント落とした。

 安候補は、同日、文候補の「共に民主党」を離党した重鎮を次の総理に迎え入れると記者会見したが、「さほど影響はないのではないか」(同前)と見られている。

 こうした動きに浮動層がどう動き、20代の決心は最終的に誰に向くのか。そして、韓国の大統領選挙の定番だった候補の一本化が文候補に対抗するために選挙直前で起きるのか――。

 韓国の大統領選挙はいよいよ終盤戦に突入した。