「逃げるということは、後ろめたいのだろう」
気になるのは、ゴーン元会長の弁護団が今回の逃亡劇を阻止できなかったのかということだ。裁判所からすると「せっかく保釈してやったのに、逃げるとはけしからん」という心理になる。「逃げるということは、後ろめたいのだろう」ということにもなる。ゴーン元会長は無罪主張の方針だったが、裁判所の心証は当然、クロに傾くだろう。
弁護団はいわゆる「無罪請負人」として知られる弘中惇一郎弁護士に加え、「日本の三大刑事弁護人」の一人でベテランの高野隆弁護士、若手随一のエースといわれる河津博史弁護士のトリオだ。日本の刑事弁護界を知る者なら、「最強の弁護団」との呼称もうなずける面々といえる。この面子だったからこそ、ゴーン元会長の早期保釈を勝ち取ることができたとも言える。それだけに、今回の「海外逃亡」に最もショックを受けているのは、弁護団だろうと推察する。現時点では、弁護団が故意に国外に出したとは考えにくい。
「裁判所の保釈許可決定は緩すぎるのではないか」
そして、同様のショックを受けているのが、裁判所だろう。日本の裁判所は、2009年に裁判員制度を導入したことを契機に、刑事被告人の保釈率を上げてきた。一般市民の裁判員が適切に公平に審理できるようにするため、被告人が弁護人と公判に向けた準備をしっかりできるようにした。それでも、特捜部の事件で被告人が否認している場合はなかなか保釈を認めない傾向があったが、今回のゴーン元会長はその例外となった。
また、最近、保釈を認めた被告人が逃亡する事件が相次ぎ、「裁判所の保釈許可決定は緩すぎるのではないか」との声も上がっていた最中の出来事だ。ゴーン元会長の「海外逃亡」はもちろん大きなインパクトを持って、裁判所の保釈基準に対する考え方を揺るがすだろう。個々の裁判官は、より慎重に判断せざるをえなくなる。
最強弁護団が今後、どう動くかはまだ不透明だが、もちろん帰国するよう促すことになるのだろう。ただ、ゴーン元会長が応じるのかどうか、応じる可能性は低いのではないだろうか。さらに、日本はレバノンと「犯罪人引き渡し条約」は結んでいない。レバノン政府がゴーン元会長の身柄を拘束して、日本に送還することも期待できないだろう。
最初から「迷走」を続けてきた「ゴーン事件」。さらなる迷走が続きそうだ。