1ページ目から読む
3/3ページ目

北朝鮮は3回目の米朝首脳会談に望みを捨てていない

 第2に、上述した「新たな戦略兵器」の詳細を明らかにしなかった。これは、トランプ米大統領が繰り返し、「米朝合意によって北朝鮮は核実験とICBMの発射実験を中断した」という主張に配慮したものだ。金正恩氏が「ICBMを発射する」と言ってしまえば、それでトランプ氏のメンツは丸つぶれになり、関係修復は不可能になる。金正恩氏は「新たな戦略兵器を目撃する」とは言ったが、それが発射を意味するのか、あるいは党創建75周年で予想される軍事パレードなどでの公開を意味するのか、その点も解釈に幅を持たせた。

 北朝鮮はまだ、3回目の米朝首脳会談の開催に望みを捨てていない。今後、2月末から予定される米韓合同軍事演習の開催などをにらみながら、緊張を高め、その緊張緩和を図るという名目で、今年前半にもう一度だけ、米朝首脳会談を行って、そこで北朝鮮が望む「核廃棄交渉ではない核軍縮交渉への転換」「経済制裁の緩和」を狙うだろう。少しだけだが対話の余地を残したといえる。

 そして最後に、金正恩氏はこうも語った。

ADVERTISEMENT

「米国の核の威嚇を制圧してわれわれの長期的な安全を保証できる強力な核抑止力の経常的動員態勢を恒常的に維持する」

 これは、核兵器の先制使用を意味している。金正恩氏が2018年1月の新年のあいさつで「核のボタンは私の執務室の上に置かれている」と語った内容と同じだ。米国との対決は避けたい。でも、真剣に対決しなければ、超大国の米国は北朝鮮を見くびって何も譲歩してくれないだろう。そういう計算が見て取れる。

「核を搭載した弾道ミサイル攻撃を考えている可能性がある」

 朝鮮中央通信は2013年3月29日、1枚の写真を配信した。金正恩氏が軍幹部らに指示を飛ばす最高司令部の様子が写っていた。その壁面には「戦略軍 米本土打撃計画」という世界地図がかけられていた。

軍戦略ロケット部隊作戦会議で幹部と協議する金正恩氏(中央)。背後に、米本土の主要都市やハワイをミサイルの標的とする「米本土打撃計画」と書かれた地図が掲げられている ©時事通信社

 2019年12月12日、京都市の立命館大学で講演した米ミドルベリー国際大学院モントレー校不拡散研究センターのジェフリー・ルイス博士は、この写真や北朝鮮がミサイル発射実験の際に公開した図面などを分析した結果について説明した。博士によれば、打撃計画に沿って北朝鮮から伸びた線の行き先などを分析したところ、韓国・釜山や、岩国、グアム、ハワイ、米本土サンディエゴ、ルイジアナ、ワシントンを標的にしていたことがわかった。ワシントンは米国の首都であり、そのほかは米軍基地や米軍の重要な軍事拠点となりうる場所だ。

 ルイス博士は「北朝鮮は核を搭載した弾道ミサイル攻撃を考えている可能性がある」と語った。「北朝鮮の核戦略はとても危険だ。戦争が始まった初日にすぐ使うかもしれないし、侵略される恐れがないのに誤解して核兵器で先制攻撃する可能性もある」と語った。

金正恩氏の理性はいつまで続くか……

 米国と韓国はすでに連合作戦計画「5015」によって、北朝鮮内の軍事基地や政治・経済の重要拠点などを先制攻撃する詳細なシステムを作り上げている。それは、北朝鮮の「米本土打撃計画」とは比べものにもならないほど、緻密で膨大なものだ。兵器の信頼性という点でも、北朝鮮は米韓とは比較にならない。

 それでも、金正恩氏はこの危険なゲームに再び挑もうとしている。北朝鮮のミサイルは、命中精度がいい加減で、何発かは発射もできない状況かもしれないが、それでも核は核だ。誤って韓国や日本に落ちる可能性だって十分ありうる。

 北朝鮮が1月1日に発表した金正恩氏の発言は、まだ彼なりに理性を保ったとも言えるが、これから徐々に緊張が高まれば、その理性もいつまで続くか定かではない。