「最速3週間の復旧作業で核実験が可能になる」
豊渓里の核実験場では2017年9月まで計6回にわたって核実験が行われた。金正恩氏は2018年4月、核実験を更に行う必要がなくなったとして廃棄を宣言。同年5月に一部の記者団の前で爆破作業が行われた。ただ、ここで、車両や人員の活発な動きが見られる。韓国の専門家は「爆破作業が坑道の入り口付近に限られていた場合、最速3週間の復旧作業で実験が可能になる」と分析している。
次に東倉里の長距離ミサイル発射実験場。こちらは2018年9月の南北首脳会談の際の共同宣言で、北朝鮮が永久廃棄を宣言。2019年2月のハノイでの米朝首脳会談の前には、実際に、エンジン燃焼実験施設の鉄塔を解体する動きを見せていた。
だが、ハノイ米朝首脳会談が物別れに終わった後、北朝鮮は解体した鉄塔を復元。2019年12月には2度にわたってエンジン燃焼実験を行った。さらに発射台付近でも活発な物資や人の動きが確認されている。日米韓は、北朝鮮が「宇宙の平和利用」を名目に、国連安保理常任理事国の中ロが反対していない「衛星運搬ロケット」の発射に踏み切る可能性もあるとみている。
3番目の寧辺核関連施設では、5メガワット原子炉や使用済み核燃料棒貯蔵施設、兵器用プルトニウムを抽出する再処理施設、ウラン濃縮施設などの周辺で車両や人の動きが活発になっている。このため、北朝鮮が兵器用プルトニウムを更に生産するため、原子炉の稼働や使用済み燃料の再処理、寧辺核施設で生産した低濃縮ウランを秘密の別の場所に移して兵器用高濃縮ウランに転換することなどを狙っている可能性がある。北朝鮮は、米国の偵察衛星の軌道や周回時刻を把握しているとされる。こうした動きをあえて見せて、威嚇しているという分析も出ている。
「米国への恐れ」が随所に垣間見えた
そして4番目の新浦。ここには北朝鮮海軍の潜水艦基地がある。北朝鮮が開発している新型の潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)「北極星3」(射程2000キロ以上)も昨年10月、この付近の海中発射台から発射された。新浦での活発な動きは、対決の雰囲気をあおるため、近く北朝鮮がSLBMを発射する動きを暗示している可能性が高いという。
一方、金正恩氏の舌鋒は切れ味鋭く、誰にも止められない激しいものであったのだろうか。上述したように、激しい論調ではあったものの、そこには「米国への恐れ」が随所に垣間見えた。
その第1は、トランプ米大統領を名指しで批判しなかったことだ。北朝鮮にとって「金正恩氏との友情」を公言するトランプ大統領は唯一の頼みの綱とも言える。このまま縁を切って、対決路線を猛進する選択もあっただろうが、それは避けた。金正恩氏は「米国が時間を引き延ばすほど、朝米関係の決算を躊躇するほど、予測できないほどに強大になる朝鮮の威力の前で無策でいるしかなく、一層行き詰まった境遇に陥ることになる」「われわれの抑止力強化の幅と深さは、米国の今後の朝鮮に対する立場によって調整される」などと語ったが、これらの発言を逆にみれば、「早く対決路線に進む自分を止めて欲しい」という懇願とも受け取れる。