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牧野知弘氏

 マンションは都市部における居住形態として、急速に発展をしてきました。同じ土地の中で建物を区分所有し、互いに寄り添って生活する「便利で快適な」住まいとして、人々に認知をされてきたのです。

 住民全員が同じ建物で生活をするのには、合理的に生活していくための「合意形成」が必要です。たとえば、マンションは有限の建造物であることから、常に建物の維持管理のために一定の支出を伴うものです。こうした費用を住民の応分の負担によって賄いながら、マンションという「村」を存続させていかなければなりません。

 また、村が栄えていくためには、ある程度の「新陳代謝」も必要です。新しい住民が入居して、住民の年齢構成のバランスが一定程度保たれることが必要だからです。

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 ところが、分譲マンションの多くは新築時に分譲され、ほぼ同年齢で同じような経済条件の人々が入居し、共同生活を営んできた経緯があります。歳を重ねていく中で、初めはほぼ同一であった家族構成や経済条件も、時の経過とともに変化し、住民間で様々な格差が生じてきます。

 そもそも「共同生活」というものは、こうしたコミュニティ内の変化に対し、全員の合意のもと、お互いに支えあいながら問題をクリアしていくことが前提となります。

 しかし、今、その前提が崩れつつあります。年齢構成がすでに偏った状態からスタートした住民全員の高齢化と、若年層の急速な減少による「新陳代謝」の欠如です。住民のMEの主張と高齢化の進行によって、ますます住民全員の合意形成を得るのが難しく、建物の維持管理を続けるのが困難になりつつあるのです。

 人口が増加し続ける限り、新たな住宅需要は常に存在し、新築住宅だけでなく、中古住宅にも需要が向けられることでしょう。しかし、現代は少子高齢化で需要そのものが減り、いわば住宅は供給過多の状態。まったく「入れ替わり」のない住民構成のもと、毎年「古くなる」建物と住民の「高齢化」が、最終的にはマンション内のコミュニティを崩壊へと向かわせるトリガーとなるのです。

 本書では、マンションという現代社会における「ごくありふれた」コミュニティ単位で、現在生じている状況をつぶさに追い、将来の住宅政策の在り方も含めて今後の住宅問題の解決策を考えてみました。ご一読いただければと思います。

まきのともひろ/オラガHSC株式会社、株式会社オフィス・牧野代表取締役。東京大学経済学部卒。ボストン・コンサルティング・グループを経て、三井不動産に勤務。2006年、J-REIT(不動産投資信託)の日本コマーシャル投資法人を上場。現在はホテルや不動産の開発・運用アドバイザリーのほか、事業顧問や講演活動を展開。主な著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題―1000万戸の衝撃』(いずれも祥伝社新書)など。

2020年マンション大崩壊 (文春新書)

牧野 知弘(著)

文藝春秋
2015年8月20日 発売

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