首相の「読売読んで」発言の波紋はどんなものだったか?
安倍晋三 首相
「自民党総裁としての考え方は、相当詳しく読売新聞に書いてあり、ぜひそれを熟読して頂いてもいいのだろう」
NHK NEWS WEB 5月8日
5月8日の衆院予算委員会でのもの。民進党の長妻昭氏がビデオメッセージについて「唐突感があった。真意を教えて頂ければ」と説明を求めたが、安倍首相は「この場は、内閣総理大臣としての責任における答弁に限定している」と説明を避け続けた。
さらに食い下がる長妻氏に対して、なぜか安倍首相は「自民党総裁としての考え方は、相当詳しく読売新聞に書いてあり、ぜひそれを熟読して頂いてもいいのだろう」と発言、委員会室は騒然となった。国会も国会議員もいらないと言っているようなものだから、そりゃそうなるだろう。たまらず、自民党の浜田靖一委員長が首相に「この場では不適切なので、今後気をつけて頂きたい」と注意する一幕もあった(朝日新聞 5月9日)。ちなみに「自民党総裁として」答えたという読売新聞の記事(5月3日)の見出しは「首相インタビュー」だった。
鈴木秀美慶応大教授(憲法・メディア法)は「重要な問題であるにもかかわらず、首相が一方的に意向を表明しているだけだ。批判的な質問を受けずに済む方法を選んでおり、メディアを選別した非民主的な手法だ」と指摘する(毎日新聞 5月12日)。
また、『週刊文春』5月18日号のコラム「新聞不信」は「報道機関の使命を忘れたのか」というタイトかつストレートなタイトルで読売新聞を痛烈に批判。「読売はルビコン川を渡ってしまった」「“官邸の広報紙”と揶揄されても文句は言えまい」などと痛罵した。
メディアを選別して独占取材をさせる手法は、ドナルド・トランプ米大統領とよく似ている。トランプ大統領は保守系のFOXニュースを重視し、政権に批判的なメディアを「フェイクニュースだ」と切り捨てている。そういえば、安倍首相とトランプ大統領は「朝日新聞に勝った!」「俺も(ニューヨークタイムズに)勝った!」と親指を突き上げた同士という仲だった(産経新聞 2月11日)。
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安倍晋三 首相
「いかに苦しくても(党を)まとめあげる決意だ」
毎日新聞 5月9日
9日に行われた参院予算委員会でのもの。安倍首相は12年の憲法改正草案を「我が党にとってベスト」としつつも、「今までの自民の改憲草案と大きく違うことを考えなければ、(改憲の発議要件の)国会議員の3分の2の賛成を得るのは難しい」と発言。そのために今回の案を出したというわけで、党内からの批判を受け止めつつも「まとめあげる決意」を示した。
なお、「自衛隊の存在をしっかりと位置づける」と表明した安倍首相に対して、岸田文雄外相は11日、「(憲法)9条で今すぐに改正することは考えない」と考えを示し、安倍首相との憲法観の違いを明らかにした(日テレNEWS24 5月11日)。さっそく党内の大物が反旗を翻した格好だ。衆議院の憲法審査会も「行政府の長による立法府への介入で安倍首相の発言の真意を明らかにする必要がある」という民進党の反発で、11日の質疑が取りやめになっている。
到底、2020年までに憲法改正などできなさそうな雲行きだが、安倍首相は本気なんだろうか? 日刊スポーツのコラム「政界地獄耳」は「安倍改憲論は森友そらし」と言い切っている(5月9日)。そういう見方もあるのだろう。
ともあれ、安倍首相は野党時代の2012年、現行憲法について「みっともない憲法ですよ、はっきり言って」と言い放っている(朝日新聞 2012年12月14日)。憲法を首相在任中に自分の手で変えたい、そのためならどんな手段でも使うというのが本音だろう。