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35歳の“素人社長”がベイスターズを黒字化に導いた「順次戦略」と「散弾銃戦略」

35歳の“素人社長”がベイスターズを黒字化に導いた「順次戦略」と「散弾銃戦略」

史上最年少球団社長の「常識を超える」経営術(1)

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『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方 35歳球団社長の経営メソッド』(池田 純 著)

 史上最年少の35歳で横浜DeNAベイスターズの球団社長に就任し、5年間で赤字24億円から5億円超の黒字化に成功した池田純さんが『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方 35歳球団社長の経営メソッド』を上梓した。

 52億円の売上に対して24億円の赤字――。経営者からすると“倒産状態”の組織を託されたということになる。だが、池田さんは、「再生は出来るのではないか。直感的にこれはやるべきだと思った」という。そして、球界の常識やしがらみを飛び越え、さまざまな改革を断行し、見事にベイスターズという組織を蘇らせた。昨年10月、契約満了に伴い、球団社長を退任した池田さんは現在、Jリーグ特任理事、ラグビー協会特任理事、明治大学学長特任補佐など10以上の肩書きを持つ実業家として活動している。「球団経営はすべてのビジネスに通じる」という池田さんに「常識を超える」経営の極意を聞いた。

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観客を増やすために、チームより経営強化が先

――ベイスターズの社長に就任した当初、池田さんは「35歳の史上最年少社長」「赤字24億円」「野球界の“素人”である」という点で球界の常識からすると特異な状況からのスタートでした。組織を改革するにあたってまず、何に着目されたのでしょうか。

池田 私が社長に就任したとき、ベイスターズは最下位に低迷し、観客動員数でも横浜スタジアムの座席稼働率が約50%という状況でした。私の役割は経営者として組織を再生し、黒字化することです。そのために一番やらなければならないのは、お客さんを増やすこと。

 実はこの最もシンプルな事実から目を背けている現状がありました。周囲からは、「最下位という状況ではスタジアムを満員にするのは無理。まずはチームが強くならないと、観客も増えない」と言われましたが、私は全く逆の発想です。「経営によって組織が強くなれば、その一部であるチームも必然的に強くなる」。経営者としての当たり前の発想ですが、今になって考えてみると球界の常識からは逸脱していたのかもしれません。

――実際に「100万円のVIPチケット」や「負けたら全額返金!?企画」「神奈川県内のすべての子どもたち72万人にベースボールキャップをプレゼント」など、“常識を超える”施策やイベントを次々に実行していきました。結果、昨シーズンは球団史上最多の観客動員数を記録し、横浜スタジアムの座席稼働率は93%と、全試合ほぼ満員状態を作り出しました。こうした発想はどこから生まれるのですか?

池田 私が球界とは関係のない“素人”であったことと、“意思決定権者”であったことが大きいと思います。しがらみや常識に縛られずにフラットな視線で事実と課題を見られますから。ベイスターズで行なった様々な施策は誰もが一度は考えたことかもしれない。でも、大抵はアイディアはあっても、障壁の方を先に考えてしまいます。

 私は社長=意思決定権者として、横浜を盛り上げ、野球という枠を超えたスポーツエンターテインメントビジネスにしなければ再生の道はないと思っていました。その目標には、普通のことをやっていたら到底たどりつきません。

満員のスタンド。2015年。池田さんの策は功を奏し、横浜スタジアムの稼働率は大きく改善した。