ヒーローインタビューの人選の難しさ
ヒーローインタビュー。それはゲームの最後を締める大事なフィナーレだ。お立ち台にあがる選手の姿を見るのを楽しみに観戦に来られるファンも沢山いる。そしてその人選を考えるのが広報の仕事の一つである(最終的にはインタビュアーと協議を行う)。これまで沢山のヒーローインタビューに携わってきた。感動的なもの、面白かったもの、いろいろなパターンがあった。そして自分が行った選択に後悔してしまうこともある。
今でもよく思い出し、反省をしてしまうのは09年9月25日のオリックス戦(マリン)。今でも本人の顔を見ると自戒の念に駆られ「ゴメンな」と声をかけてしまう。本人から「大丈夫ですよ」と笑顔で返されるのがそれまた辛い。
その相手は塀内久雄氏。14年限りで現役を引退し、現在は球団のベースボールアカデミーのテクニカルコーチを務め、子供たちの指導に当たっている。現役時代、シーズンでのヒーローインタビューを受けたことはない。ただ、9月25日のオリックス戦は決勝点を挙げており、ヒーローになる資格は十分だった。
0-0で迎えた五回。2番セカンドでスタメン出場した塀内は二死二塁のチャンスで打席に立った。オリックス先発・岸田護との対戦。カウント2ボールからの3球目。「次は必ずストライクゾーンに投げてくると思っていたので狙っていた」と、甘めに入ったチェンジアップを打ち返すと打球は左前に転がり、先制適時打となった。ベンチに戻ると早川大輔外野手から声をかけられた。
「塀ちゃん、お立ち台に上がったことはあるの? 今日はチャンスだね」。周りから冷やかされ、「ああ、そういう可能性もあるかなと思った」と振り返る。ただ、試合はまだ中盤。その後、六回に今江敏晃(現:年晶)が左前適時打。角中勝也が押し出し四球。早坂圭介が中犠飛。西岡剛が左犠飛を放ち4点が入る。そして七回には大松尚逸がライトスタンドに19号ソロ。この日、3安打猛打賞でさらに家族の誕生日ということも重なり、大松にヒーローインタビュー当確ランプが灯った。
もう一人、早い段階でお立ち台が決まったのが先発の成瀬善久。9回を投げて被安打2、無失点。11勝目を上げる完封劇だった。この当時は平日ナイトゲームのお立ち台は原則2名という流れがあり、私の最終決断は大松と成瀬の投打のヒーロー。塀内はもっと一人で目立つ時にお立ち台に上らせてあげたいという想いによる決断でもあった。
この日は打線が全体的に打っていることもあり、先制打は放ったものの大人しい性格もあり、彼の存在がどこかボヤけてしまうではとの最終判断だ。しかし、結果的に彼の15年の現役生活でお立ち台に上がることはその後、訪れなかった。このことはずっと心の中で引っかかったままだった。だから引退することを報告されたとき、まずそのことを謝った。本人はいつもの人懐っこい笑顔で返してくれた。
「自分が持っていなかっただけですよ。あの試合はみんな打っていたし、大松はホームランだったし、自分は厳しいだろうなあと思っていました。それまでも何度かチャンスはあったけど、どれもダメだった。持っていないんですよ」
どうしても欲しかったマーくんの巨大人形
持っていないと自己評価をする男は、それでも持っている男でもあった。デビューは02年4月7日、マリンでの近鉄戦で守備固めで遊撃に入った。そして初打席は翌4月8日の日本ハム戦。この初打席でシールバックから初安打初本塁打初打点を記録する。勝てば、もちろん文句なしのヒーロー。しかし、試合は逆転負けを喫してしまう。
もう一度、チャンスがあったとすれば05年7月10日の楽天戦。この試合は仙台でのビジターゲームのため、お立ち台ではないが、ヒーローインタビューを受けるチャンスはあった。3-3で迎えた延長十一回。一死二塁、代打で登場すると福盛から右中間を割る勝ち越しの適時二塁打を放った。「あの時はさすがに、ベンチに戻ってきてヒーローインタビューはなにを答えたらいいのだろうと考えていた」。しかし、その裏、抑えの小林雅英が打たれ同点。結局、試合は4-4で引き分けに終わる。
マリーンズはお立ち台に上がると球団公式キャラクター・マーくんの巨大人形をもらうことが出来る。自宅にそれを何体も持っている選手もいれば、一度も手にすることなくユニホームを脱ぐことになる選手もいる。塀内はいつか手に入れようと頑張ったが、ついには手に入れることはなかった。
「あれ、欲しかったですね。お立ち台を終えてロッカーに戻ってくる選手が持って帰ってくるのを見て憧れていました」
ちなみに本拠地では本塁打を打った際にベンチ前でボールボーイから小さなマーくん人形を渡され、打った選手がスタンドのファンに投げ入れるのが恒例行事だ。塀内はあまりの欲しさに一度だけ、それを投げずに持ち帰ったことがあるほどだ。
ただ、持っていない男と自称する男も多くの選手が経験をすることが出来ないような貴重な思い出を手にしている。大事な宝物だ。