性善説のマネジメント
このようなマネジメントを可能にするためには、コミュニケーションの障壁を小さくする必要もありそうだ。
「おっしゃる通りで、『ノックしてから入れ』式のコミュニケーションでは、ノックすることがまず心理的障壁になってしまいます。また、お互いにウェブカメラで監視し合うような『性悪説』のマネジメントでは、こんな働き方はとうていできません。とにかく各自が自律的にルールを守り、成果を出すということを上司、部下の間で信頼し合う。やることさえやっていればあとは自由裁量でいい、という『性善説』のマネジメントとフリーアドレスは相性がいいのだと思います。そのためのITツールはいくらでも揃っているので、あとはやる理由を共有しているかどうか、やり抜く気持ちがあるかどうかなんですよね」
増員に対応できるメリット
社員の席をフリーにするだけでなく、コワーキングスペースやカフェ、自宅など、働く場所をフリーにしていくことのメリットは、よく言われるような生産性向上やイノベーションの活性化に寄与するだけではないと鈴木さんは言う。
「我々はフリーアドレスのオフィスを導入していただいたあとも、さまざまな手法を用いて効果を実測し、さらなる改善もご提案しているのですが、ここ1~2年とくに着目している評価軸は『導入後の増員』です。2020年代に向けて企業の景況感はよく、その反面、人口減少は加速していきます。どの企業も良い人材は欲しいし、なるべく社内にとどまってほしいというニーズがある。でもオフィスのキャパシティを超えてしまえば移転コストがかかってしまいますが、フリーアドレスはスペース効率がすぐれていますし、レイアウト変更も比較的容易です。我々も増員を見込んだバッファを設定し、ご提案するようにしています」
都心の企業を襲う“2020年問題”
鈴木さんはさらに、「2020年7月24日、これが何の日付かご存知ですか?」と謎めいた問いかけを口にした。
「東京オリンピックの開会式です。この日から8月9日の閉会式まで、都内は世界中からいらっしゃった方々で溢れかえります。公共交通機関や自動車での移動も、台風上陸時以上に困難になることが予想されています。現在、総務省は『2020年に向けたテレワーク国民運動プロジェクト』を推進していて、コクヨも協力企業として名を連ねていますが、この期間に仕事を止めないためのトレーニングは、どの企業でも必須になるはずです。フリーアドレスにとどまらず、働き方を考え直すきっかけになるのではないでしょうか」
写真=鈴木七絵/文藝春秋