一体、「とり」で何を書けというのか?
「対戦テーマはどうしますか?」と、文春野球・村瀬秀信コミッショナーに問われたのですが、松中さんよりも年長者であり、文筆業を生業としている僕は、カッコつけて、「松中さんの書きたいテーマでいいですよ」と大人の余裕を見せてしまいました。しかし、今から思えば、これが大きな間違いでした。
しばらくして、「松中さんとの対戦テーマが決まりました」と、村瀬コミッショナーから連絡が来ました。僕はなおも余裕をかまして、「で、何を書けばいいんですか?」と問うと、コミッショナーはひと言、「とり」と答えます。
その瞬間、僕の頭の中には真っ白い空間が登場しました。古い例えで恐縮ですが、松本人志の映画『しんぼる』で、主人公が閉じ込められていた、あの白い壁に囲まれた真っ白な部屋のような感覚です。改めて、確認してみても、コミッショナーは「とり」とひと言。しかも、漢字でもカタカナでもなく、ひらがなで「とり」なのだそうです。
しばらく考えて、ようやく気づきました。「ツバメ」と「タカ」ということで、「とり対決」なのでしょうか? 野球に関係のありそうな「捕り」「獲り」などいろいろ考えてみましたが、残念ながら僕には「とり対決」を征する自信がまったくなく、コミッショナーに対して提訴しました。「この対戦はなかったことにしてくれ!」と。提訴試合も辞さない覚悟でした。しかし、動き始めた歯車を押し戻すことはすでに不可能でした。
……あっ、ヤクルトで「とり」と言えば、かつて鳥原公二という、背番号《33》の変則投手がいました。引退後にはチーフスカウトも務めた方です。そうだ、鳥原公二について書こう。いや、よく考えたら僕は彼のことを何も知りません。仕方ないので、鳥原の件はあきらめました。
「もはや、棄権するしかないか」とあきらめていたところ、この言い訳文だけですでに2000字程度の文字数となりました。それにしても、松中さんは「とり」でどんなコラムを仕上げてくるのでしょう? 僕にはまったく想像もつきません。恐るべし、松中みなみ。ということで、今度、ゆっくりお話しできる機会を楽しみにしています。
そして、ヤクルトファンのみなさんへ。今回は内輪受けの駄文でスミマセン。でも、僕の力量では「とり」では何も書けないんです。松中みなみ、恐るべし。ソフトバンク、恐るべし。僕の今の心境は、2015年日本シリーズを戦い終えたヤクルトナインと同様のものと思われます。圧倒的な無力感。ここまでの文章は、恥を忍んで言えば「弱者の兵法」です。もちろん、ノムさんから学んだ戦法です。
最後に、ソフトバンクの二軍、三軍で奮闘している若手選手たちへ。もしもよかったら、うちに来ませんか? 「パリコレ」と呼ばれ、パ・リーグ出身者が大活躍できる土壌が、うちにはあります。そのままソフトバンクに残っていても、試合に出るチャンスにはなかなか恵まれませんよ。その点、故障者続出のヤクルトならチャンスは無限大。ぜひ、考慮してみてください。もしも、ご興味のある方がいれば山中浩史の携帯まで、どうぞご連絡を。
敬具
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対戦中:VS 福岡ソフトバンクホークス(松中みなみ)
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