この後、韓国と日本のろう者や障害者の置かれている環境の違いや共通点などが語られた。昔に比べれば少しずつ良くなってはいるものの、まだまだ理解されていないことが多いのが現状。小説や映画がそういう状況を変えることに少しでも役立てば、と思いは一致した。
語る人でありたい
丸山 ボラさんは、今後どんな作品をつくっていきたいですか?
ボラ この映画が公開された後、たくさんのろう者の方々から『きらめく拍手の音2』を作ってと言われるんですけど、私としてはちょっと違うこともやってみたい。本も書き、映画も撮るけど、映画監督だ、作家だ、と呼ばれるよりは、話をする人、ストーリーテラー(=語る人)と呼ばれたらいいなと思っています。語りたい話によって媒体、例えば演劇だったり実験映像だったり、それに合った形で表現していきたい。具体的な最新作は、ベトナム戦争に関連した映画です。ベトナム戦争の時、韓国軍がベトナムの民間人を虐殺した事実があるのですが、韓国ではあまり知られていません。そのことを現地の女性や、聴覚障害者、視覚障害者といった権力の外にいる人たちがどのように記憶しているのか、彼らの視点による記憶を映画に取り入れたいと思っています。今は編集作業中です。
丸山さんの次の作品についても聞いていいですか?
丸山 『デフ・ヴォイス』の後、いくつか長篇小説を書きました。そのうちの一本は、『漂う子』(河出書房新社)という、親と一緒に行方不明になってしまう子供たちのことを描いた作品。虐待や捨て子、今日本で問題になっている「子供の貧困」などを通し、親になるとはどういうことか、について書きました。
「Lの子供」というタイトルの、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの総称)について書いた作品もあるんですが、どこへ持って行っても出版してくれなくって。レズビアンカップルの子供である20歳の青年が、ある人探しを頼まれたことを機に自分のアイデンティティについても考える、という青春小説。これ、面白いんですよ!
他に、「小説すばる」に「ウェルカム・ホーム」という特別養護老人ホームで働く青年を主人公にした短篇を書きました。近々第2話が掲載される予定です。主人公の青年の成長を通して、介護の問題や老いるとはどういうことか、を考えるお話です。
ボラ 『デフ・ヴォイス2』は書かないんですか?
丸山 実は私もボラさんと同じように、『デフ・ヴォイス』の続篇を書かないかということは皆さんから言われていて……これについても考え中で、どういうものになるか、近いうちに発表できると思います。
ボラ それは楽しみですね!
丸山 私もボラさんの新作は是非観たいですが、その前にまずは『きらめく拍手の音』が日本でもロングランになることを祈りましょう。
ボラ はい、ありがとうございます!
イギル・ボラ●1990年生まれ。18歳で高校を退学、東南アジアを旅しながら自身の旅の過程を描いた中篇映画『Road-Schooler』(2009)を制作。韓国国立芸術大学で、ドキュメンタリーの製作を学ぶ。『きらめく拍手の音』は国内外の映画祭で上映され、日本では山形国際ドキュメンタリー映画祭2015〈アジア千波万波部門〉で特別賞受賞。2015年に韓国で劇場公開を果たした。
まるやままさき●1961年生まれ。早稲田大学第一文学部演劇科卒業。広告代理店でアルバイトの後、フリーランスのシナリオライターとして、企業・官公庁の広報ビデオから、映画、オリジナルビデオ、テレビドラマ、ドキュメンタリー、舞台などの脚本を手がける。2011年、『デフ・ヴォイス』で小説家デビュー。ほかの作品として『漂う子』がある。
『デフ・ヴォイス』
仕事と結婚に失敗した中年男・荒井尚人。今の恋人にも半ば心を閉ざしているが、やがてただ一つの技能を活かして手話通訳士となり、ろう者の法廷通訳を務めることに。そこへ若いボランティア女性が接近してきて、現在と過去、二つの事件の謎が交錯を始める……。マイノリティーの静かな叫びが胸を打つ、傑作長篇。
『きらめく拍手の音』
サッカー選手を目指した青年が、教会で出会った美人の娘にひとめ惚れ。やがて夫婦となり、二人の子どもを授かるが、他の家族とちょっと違うのは、夫婦は耳が聞こえず、子どもたちは聞こえるということ……。韓国の若き女性監督が、繊細な語り口とやわらかな視線で、音のない家族のかたちをつむぐ。両親へのプレゼントのようなドキュメンタリー。
(終り)
撮影 チュ・チュンヨン 翻訳・構成 矢澤浩子