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「勝つのは嬉しい、だけど、怖い」

「ばあやがあの日ハマスタで見たのは、歓喜の紙テープがグラウンドを包み、権藤監督が10回宙に舞い、見知らぬファン同士が抱き合う、そんな夢のような景色でした。まさかあの歓喜がその後何年にもわたりこの球団を縛り付ける呪いのスタートになろうとは、夢にも思わなかった。1998年を思い出すということは、つまりそういうことなんです」

「ばあや……」

「あのときのグラウンドの選手たちが眩しすぎて、ばあやの目は光を失ってしまったんですよ。それからずっと暗闇の中を、ばあやは、ベイスターズファンはさまよっているんです」

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「それなのに、どうしてばあやはずっとベイスターズを応援し続けているんだい?」

「光を失ったのがこの球団なら、再び光をもたらすのもベイスターズしかないと、ばあやはここまで信じて参りました。でもまだ『強くなったら弱くなってしまう』という、1998年がもたらしたトラウマから完全に逃れられてはいない。勝つのは嬉しい、だけど、怖い」

「……ばあや、ボク決めたよ。ボク大きくなったら野球選手になる。それでベイスターズに入って、きっとまたばあやにその眩しい光景を見せてあげるから」

「まぁ坊ちゃん、なんと嬉しいことを……。今日はもう、ゆっくりおやすみなさい。浩之坊ちゃん」

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