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「人の流れが混ざりあう」空間を提案

――そんな広瀬さんがヤフー新オフィスの役員フロアをディレクションすることになったのはどのような経緯だったのですか。

広瀬 コンペの参加に声をかけてもらったんです。とはいえ大手企業ばかりのコンペで、よそを差し置きウチみたいな小さな事務所にこのような大きな案件に声をかけて頂き嬉しさと共に責任も感じました。だけど何らかの意味があって声をかけてくれたんだろうと思って、建築家と一緒に、エレベーターの着床までも変更して外部から内部に入り込める中間領域を作るという、かなりラディカルなアイデアを提案してみました。

 

広瀬 最近、開発されるオフィスビルで、売りになるのはセキュリティです。外部の人が乗るエレベーターは、機密性の求められるフロアの手前までしか来られない。エレベーターの着床で、安全性を保っているわけです。

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 ヤフーはいまや大企業です。セキュリティを高めたビルの内側にこもっても、事業は成立するんじゃないかと思います。だけど川邊さんもCEOの宮坂(学)さんも日本のインターネットに黎明期から関わってきた人で、雑多な交流からすぐれたビジネスが生まれた経験をお持ちです。いまの若い起業家たちの可能性にも、期待と脅威を感じているはず。そういう人たちもヤフーの内部に招いて気持ちよく働いてもらうことができれば、起業家にもヤフーにもメリットは大きいんじゃないか。

 ここで言う「外部の人」とは、ビジネスで協働する人だけではありません。ヤフーのサービスはネット企業の枠を超えて、すでに生活のインフラとして地方の高齢者にまで浸透しています。ビジネスの相手だけでなく、サービス利用者とも触れ合ったほうがいいはず。そこでヤフオク! を実際にリアルスペースで行う「オークションハウス」や、ヤフー・ショッピングの実店舗「ECサイトポップアップストア」など面白ネタを含めて提案に盛り込みました(笑)。

――ヤフオク! をあえて人同士が対面で行う、すごくおもしろいアイデアですね。

広瀬 複合施設は、たいていオフィス棟、商業施設、ホテルとエントランスが分かれてしまって、目的が人の流れを分断していますよね。テナントがどんなに頑張ってもこれを変えるのは難しいので、最初から人の流れが混ざり合う空間にしたかったんです。

 結局コンペで選出頂くことはかなわず、これらの提案は実現しなかったけど、結果、一部のエントランスゲートを開きっぱなしにして誰でも入れるようにし、LODGEのあるフロアまでのアクセスが可能になりました。川邊さんがもともと考えていらっしゃった構想が具現化されています。その際に、僕らのアイデアが部分的にでも活かされているんだとしたら嬉しいなと感じています。

 コンペの結果、役員フロアについては手伝ってほしいと依頼を受け、僕らでディレクションさせてもらうことになったんです。

©Tone&Matter

「爆速」経営を下支えするオフィス

――役員フロアは外部の人が自由に入れる場所ではないので、独創的なフロアにしても社外へのアピールにはならない気もしますが、広瀬さんに依頼された意図はどこにあったと思いますか?

広瀬 その当時、社内改革のキーワードとして掲げられていたのは「爆速」でした。裏返せば、組織が大きくなったことで経営が失速しているという危機感があったのだと思います。

 川邊さんは、東京ミッドタウンのオフィスでは、役員フロアとほかの社員の距離が遠かった、とおっしゃっています。役員はそれぞれの役員室にこもって、いま誰がいるのかを把握しているのは秘書だけ。それが嫌で、まずは役員間の壁を取り払いたいんだ、と。