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合宿参加のきっかけとなった千賀からの言葉

 そんな杉山だが、千賀の言葉通りに野球はマジメに、そしてこの合宿に真摯な気持ちで取り組んだ。そもそも杉山が千賀に師事するようになったのは「お前、スゲーな」と誉められた後に、「俺の中でまったく理に適っていない投げ方をしているのに、よくそんなボールが投げられるな」と言われたことがきっかけだった。以来、杉山は自分のフォームにより興味を持つようになった。千賀の原点である自主トレで何かをつかんでやろう、との思いはひしひしと伝わってきた。

 杉山は、千賀と同じ「あし体」だ。鴻江氏から指導を受ける中で、まずハッと気づかされたのが左足のインステップについてだった。

「僕、もともとはインステップで投げていて、上半身が反りながら腕を逃がす投げ方をしていました。ただ、インステップは駄目という固定概念があるじゃないですか。それで矯正していたけど、インステップでいいんだ、それが君にとってのまっすぐなんだと教わりました。なぜ、インステップが駄目なのかは分かっていたけど、自分がなぜインステップで投げていたのかを考えたことがなかった。逆の発想を気づかせてくれました」

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 合宿4日目の夜には勇気を出して一歩を踏み出した。この日から合流した巨人の菅野智之のもとへ一人ですっと近寄っていき、質問攻めにした。

「もともと僕ってエイヤって投げていたじゃないですか。自分で一生懸命投げに行っていた。でもこの合宿で教わって、今のフォームは意識をしたところだけを動かせば、勝手にボールが離れていく感じなんです。気づけばミットにバーンと収まっている。ただ、意識の問題ですが、実際の試合の中で勝手にボールが手から離れてあそこに行った、その結果打たれましたじゃ済まないじゃないですか。ボールをリリースする感覚を菅野さんはどのように考えているかを聞いてみたかったんです。菅野さんからは、まず軽いボールを投げて、その次に硬式球を持つと手に乗っかる感覚がある、手先の感覚が出るよと教えてもらいました。今の時期なので、いろいろ試してみようと思います」

 今回の合宿にはソフトバンクや巨人など計8球団の15名の投手と女子ソフトボールのレジェンドである上野由岐子が参加をした。「新しい交流がたくさん出来た。それもめちゃくちゃ良かったです」と笑みを浮かべた。

 千賀は言う。

「杉山は、上手にハンドル捌きを覚えた感じ。短期間で凄く伸びた」

 鴻江合宿を経て、「自分の能力の中で一気に成長を果たしていく」選手を何人も見てきた。自分の進むべき道を信じ、素直にまい進すれば、1年後には日本中の野球ファンが当たり前のように名前を知る投手になっていても不思議ではない。

 まずは2月の春季キャンプで、度肝を抜くような球を見せてほしい。

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