鷹のエース千賀滉大は有能な予言者だ。

 毎年1月の“それ”を知るファンは、そう信じているに違いない。千賀はまだ背番号128だったプロ1年目のオフから欠かすことなく、1月の自主トレでは「鴻江スポーツアカデミー」代表でアスリートコンサルタントの鴻江寿治氏に師事し続けている。同氏が提唱する骨幹理論に基づき、自身の体が「うで体」か「あし体」かを見極めてそれに沿う形で投球フォームを作り上げてきたことが、史上空前ともいえる大出世を支えてきた。ちなみに千賀は「あし体」だ。

 そして、近年はそんな成り上がりの秘訣を知った選手たちが、次々と鴻江スポーツアカデミーの合宿に参加するようになった。

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鴻江合宿をきっかけに驚きの成長を見せた選手たち

「自分を知り、自分の進むべき道を見つければ、人は自分の能力の中で一気に成長を果たしていくのです」(鴻江氏)

 参加選手に求められるのは、いままでの投げ方を一旦リセットして、ゼロから自分のフォームを作り上げていくこと。一度体に染みついたものを壊す。それはアマよりもプロの方が難しい。

 だが、それを成し遂げた選手は驚きの成長を見せている。

 千賀は1月の自主トレの段階で、未来の飛躍をズバリ言い当ててきたのだ。

 2017年は、ソフトバンクの石川柊太だった。自主トレが終わる頃、千賀が「球が吹き上がっとる。こんなにすぐ変わりすぎて怖い(笑)」と切れ長の目を丸くして驚いた。一緒にトレーニングを行った中日の吉見一起は思わず「うちに居たらエースですよ」と唸った。この時点の石川はまだ一軍未登板の投手だった。それが、この年に8勝を挙げ、翌年には13勝をマークするまでになった。

 2018年は、同じくソフトバンクの川原弘之だ。肩も肘も手術歴のある左腕は藁にもすがる思いで訪れた。少し腕を下げるなど、かなり大胆にフォームを見直した。そして投球を見た千賀は「これはヤバイ。(活躍は)間違いないでしょ!」と太鼓判。この年は二軍ながら初めてシーズンを通して投げ、昨年支配下復帰を果たして一軍で19試合に投げた。

 2019年、ロッテの種市篤暉が大きく飛躍した。千賀と同様の「あし体」だと知り、それに基づいた投げ方を必死に学んだ。「貫通ストレート」という見出しが、1年前に報じられたのを記憶する方もいるはずだ。昨シーズンの種市は8勝を挙げて、若きエース候補と呼ばれるまでになった。

2020年のイチオシ 杉山一樹の潜在能力の高さ

 では、今年1月、千賀がイチオシした投手は誰だったのか――。

「群を抜いていた。僕も越された。本当に凄かった」

 大絶賛の言葉の先にいたのは、ソフトバンクの後輩である杉山一樹だった。杉山は社会人野球の三菱重工広島からドラフト2位で入団して今季が2年目になる。即戦力と期待されたが、昨シーズンは一軍登板2試合に終わっていた。ただ、潜在能力の高さは誰もが認める右腕だ。身長193cmの大型ピッチャーで、アマ時代から最速153キロをマーク。同期1位で入団の甲斐野央が最速159キロで、プロ1年目から目覚ましい活躍を見せたが、チーム内では「持っている能力は甲斐野よりも上かもしれない」といまだに評判が立つほどだ。

三菱重工広島からドラフト2位で入団して今季が2年目になる杉山一樹 ©田尻耕太郎

 千賀もポテンシャルの高さを認める。

「見ての通り、モノが凄いのは分かると思います。ただ、普段はホワーンとしていて、おバカ(笑)。野球はマジメですけど」

 ときに、杉山の天然キャラは周囲をざわつかせる。入団会見の時、「パ・リーグで対戦したい打者は?」と問われると、迷わず「筒香さんです」と返してきた。これは……と思い、後日「パ・リーグ6球団クイズ」を出題すると、いの一番に「巨人!」と答えてきた(もう覚えました!と本人談)。

 ほかにも入団時のプロフィールに「自分大好き」と書き記した。理由を聞くと「きつい練習をしているとき『みんなより追い込んでいるな』とか、試合で何連投もしているとき『やべえ、俺』みたいな。頑張って乗り越えようとしている自分が好きなんです」と笑って説明し、番記者たちは“ドMの杉山”と囁いた

 社会人時代に遡っても逸話が出てくる。

「2年目に一度野球が楽しくなくて辞めようと思った。その時に目指したのがボディービルダー。大会に出ようと思って必死にウエイトを頑張りました。そしたら3年目に他のチームの補強選手で都市対抗に出ることになって。それで野球をまた頑張ろうと。ウエイトをしたおかげでボールが速くなったし」

 また、当時のグラブには「牛一頭」と刺繍していた。元広島選手でもある町田公二郎監督から「牛一頭くらい食え」とハッパをかけられていたからだそうだ。そして、プロ2年目の今季のグラブには「世界遺産になりたい」という目標が縫い込まれている。もはや意味不明だ。