横田氏が感謝とともに伝えたかったこと
「今でも思い出したら、こうやって鳥肌が立つんですよね」
144人のファンと、あらためて引退試合のプレー映像を見ながら、胸の高鳴りを抑えるように、両腕に視線を落とした。約3時間のイベントは終始、温かい空気に包まれた。MCとのトークでは、話を振られても「はい」「そうです」「ありがとうございます」とガチガチの固い返事は時間が経っても変わらなかった。それでも、これが横田慎太郎の「ありのまま」だと分かっている人たちの優しい視線も、また変わらないまま。関西だけでなく東京や埼玉などの遠方からこの日のために駆けつけた人も少なくなかった。「昨年1年間で横田君には本当に勇気をもらったので……」。数え切れない「涙」と「ありがとう」が交錯し続けた。
感謝とともに、伝えたいことがもう1つあった。
「何か、1日1つでも小さな目標を持ってやっていけば、あのバックホームみたいな良いことが起こるんだと。病気で苦しんでいる人や、悩んでいる人に少しでも勇気を与えたい。僕が忘れられないうちにそれを自分の言葉で伝えていきたいと思ってます」
参加者全員に配られた特製のクリアファイルに、1枚ずつ直筆で背番号「24」を記しながら、今後について語った。阪神タイガースからは、アカデミーコーチの打診を受けたが、視力の不安もあって固辞。今は故郷・鹿児島で1人暮らしを始め、地元のラジオ番組にも出演するなど「自分の言葉」でその経験を伝えている。「いつかまた野球に恩返しができる日が来ればと思います」。「ありがとう」はしっかりと言えた。歩んできた壮絶で濃密な道のりを時に振り返りながら、横田氏は、一歩前へ踏み出そうとしている。
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