文春オンライン

「共謀罪」成立 記憶しておきたい発言を総まとめ

「私の頭脳で対応できない」まま、法案は成立した

2017/06/17
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国会でのヤジ
「共謀罪で逮捕するぞ」

「報道ステーション」 6月15日

 名言、珍言、問題発言で1週間を振り返る。テロ等準備罪の新設を柱とする改正組織的犯罪処罰法、いわゆる「共謀罪」法案が15日朝、参院本会議で成立した。自民、公明両党が「中間報告」という手続きを使って一方的に参院法務委員会の審議を打ち切り、本会議採決を強行した形となった。このまま国会は会期延長せず、事実上16日で閉会する見通し。

©共同通信社

 安倍晋三首相は今年5月にイタリアで行われたG7首脳会議で「参院で丁寧な、分かりやすい説明に心がけ、確実な成立を期したい」と語ったが(産経新聞 5月28日)、参院での審議は約20時間に過ぎない。審議が尽くされたとはとても言い難い。何より「分かりやすい説明」がまったくなされていないのだ。

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「共謀罪」法案についての疑問をごく簡単にまとめると、「誰が何をすれば処罰されるのかが曖昧」だということに尽きる。当初、政府は処罰や捜査の対象について「組織的犯罪集団」のみであり「一般人は対象外」と主張してきたが、審議が進むにつれてどんどん曖昧になっていった。

「私の頭脳で対応できなくて申し訳ありません」の迷言で知られる金田勝年法相は「組織的犯罪集団と関わりがある周辺者が処罰されることもあり得る」などと答弁してきた。盛山正仁法務副大臣は「嫌疑があれば、もはや一般人ではない」と語り(共同通信 4月28日)、法務省の林真琴刑事局長も「構成員以外を一般人というのなら、一般人が計画に参画することはあり得る」と認めている(東京新聞 6月14日)。「一般人」かどうかの判断が、恣意的なものであることが浮き彫りにされた。

「たけし軍団」と「組織的犯罪集団」

 芸人のプチ鹿島氏は、ビートたけしさんと「たけし軍団」が「組織的犯罪集団」に一変した瞬間があると書いている(文春オンライン 6月2日)。たけしさんとたけし軍団は86年の「フライデー襲撃事件」で傘や消火器を振り回して暴れたことがある。今後、たけしさんが政府を批判するネタを繰り返して権力に監視されるようになることがあれば、急に雨が降ってきたときに傘を買っただけで警察は一斉に動くだろう――こんな冗談がもはや笑えない。

ビートたけし ©杉山秀樹/文藝春秋

 そんな中、徹夜国会となった15日の参院本会議で社民党の福島みずほ議員に浴びせられたヤジが「共謀罪で逮捕するぞ」だった。声の主は不明。ヤジとともに笑い声が広がったが、笑いごとじゃないと思った人は多いはず。「権力に楯突くような気に入らないヤツは逮捕してしまえ」という考え方が現実になるのが「共謀罪」法案だからだ。

「共謀罪」法案に反対するため国会前に集まった人々のことを伝えるニュース記事に対して、「共謀罪」法案に賛成する人々は「普通の日本人はそんなことをしない」というコメントを書き連ねていた。しかし、この法案において「普通の日本人」が何を指すのか曖昧なのが問題になっているのだ。

 国連特別報告者のジョセフ・ケナタッチ氏は「私の友人が、手綱や鞍などの安全装置を使わずに馬に乗ろうとしているようなもの」とシンポジウムで発言した(産経新聞 6月9日)。「共謀罪で逮捕するぞ」というヤジを飛ばして笑う人々が“安全装置”を重視するはずがない。「共謀罪」法案は21日に公布され、7月11日に施行される見込みである。