杉井敦/戦略・安全保障研究家。1989年福岡県生まれ。防衛大学校卒業。2013年、防衛省・自衛隊を退職。著書に『防衛大学校で、戦争と安全保障をどう学んだか』(星野了俊との共著)。

 一口に日本が攻められるといっても、洋上を航行している自衛隊の艦船が突然攻撃を受ける、スクランブルの戦闘機が故意に撃墜される、あるいは、尖閣のような島嶼に他国軍が上陸して占拠する、攻撃してきた敵がそもそも軍隊ではなかったなど、さまざまなケースが想定されます。

 日本が他国もしくは不特定の武装組織から武力攻撃を受けた場合、または、そのような事態の発生が切迫しているとき、迅速に状況を判断し、必要とされる法的プロセスに従って対処することが求められます。自衛隊が有無を言わせず攻撃することは、あり得ません。あくまで適切と考えられる法的根拠に従うことになります。

 直面した危機が、不特定の武装組織や不審船舶、テロリストによってもたらされたものであれば、危機の度合いによっては、警察や海上保安庁による警察権の行使が最適な場合もあります。もし、警察や海保の力では手におえない状況と判断されるならば、自衛隊による「治安出動」や「海上警備行動」が検討されることになります。この場合において自衛隊が武器を使用するには警察官職務執行法や海上保安庁法に準じる必要があります。しかし、軍事力の行使は、結果のもたらす不確実性に加え、その政治的意味合いを勘案すれば、あくまで最終手段でなければなりません。

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 平時、有事、そのどちらともいえないグレーゾーン、様々な危機の場面に、いかに適切に対処するのか。どのレベルまでの危機を警察や海保が扱い、どこから自衛隊が出動するのか。あるいは、いかに組織間で連携していくか。ある意味、非常にデリケートな問題であるとともに、適切な法整備が求められる分野でもあります。

 いま、日本の領土に敵国軍が上陸してきたと想定します。その時、自衛隊が自衛権に基づいて武力を行使するまでの流れは、以下のようになります。

 まず、内閣総理大臣が自衛隊法に基づき「防衛出動」を発令します。防衛出動とは、日本に対する外部からの「武力攻撃事態」が発生したとき、もしくは「武力攻撃事態」が発生する明白な危険が切迫しており、日本を防衛する必要があると認められる場合に、自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣によって、命令されるものです。防衛出動は、特に緊急の必要があり、事前に国会の承認を得る時間的余裕がない場合を除き、原則として事前の国会承認を必要とします。もし日本が急に攻め込まれるようなことがあれば、防衛出動が発令されるはずです。

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