意図したわけでもなさそうだけど、樹木の姿があちらこちらでよく目立つ。その様子はいかにも瑞々しくて、冬の乾燥した空気や気分を潤してくれる。
国立新美術館で開催中の現代アート展「DOMANI・明日2020 傷ついた風景の向こうに」会場でのこと。10組11人のアーティストによるグループ展の出品作に、樹の幹、枝ぶり、葉っぱなどのモチーフが多々見られるのだ。
樹を見上げるとは、空を見ること
たとえば、記憶や歴史をテーマにした写真作品をつくる米田知子の、《「コレスポンデンス−友への手紙」シリーズより 池の彫刻と椰子の木越しに空を覗く、ハマ植物公園(アルジェ・アルジェリア)》。20世紀のフランスを生きた文学者アルベール・カミュの生涯に取材したシリーズで、写真にはフランス統治下アルジェリアに造られた公園が写っている。
椰子の木が鬱蒼と茂るさまを捉えたモノクロ写真は、不思議と強い郷愁を呼び起こす。
日高理恵子が作品を展開する室では、文字通り四方を樹木に囲まれてしまう。いずれの壁面にも、岩絵具で樹の枝葉が描かれた巨大絵画が掛けられているのだ。
日高の作品はいつも、大きな樹を見上げた構図をとる。きっとだれしも一度くらい、公園や森の中で上を向いて、樹々の枝ぶりに見惚れたことがあるのでは? そのとき感じた清々しさが、日高の絵の中で再現されている。
ただし日高はこの「見上げる構図」で、樹木というよりは空を見ようとしているのだとか。空という計りしれない存在にピントを合わせようとする視線が、ただでさえ大きい絵画を、いっそう広がりあるものに見せている。