スマホか何かで写真を撮るとき、すぐ一段階レベルアップできる簡単な方法がある。
被写体を、反射するもの、光るもの、小さくてたくさんあるもの、揺れたり蠢いたりしているもの……。そうした「写真映え」することがらのみに絞るのだ。
すると不思議、画面にはきっと輝きと躍動感が生じてくる。
この法則をみごとに活用した、格好のお手本となる写真家がいる。ニューヨークの街でカメラを掲げ続けた、ソール・ライター。彼の名作を集めた展示が始まっている。東京渋谷、Bunkamura ザ・ミュージアムでの「ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター」展。
生命感にあふれた写真の数々
ソール・ライターは1923年、米国ペンシルバニア州ピッツバーグの生まれ。画家になることを夢見て20代でニューヨークに出た。写真にも関心を示すようになり、1950年代からはファッション・フォトグラファーとして華々しく活躍する。
80年代あたりになると商業写真の世界からは身を引くかたちとなり、いったんは表舞台で名前を見かけなくなった。ところが2006年に過去作品を集めた写真集が出版されると、「カラー写真のパイオニアだ!」と世界的な話題となる。
そのときすでに80歳を過ぎていた。2013年に没したあとも、人気は衰えることなくいまに至っている。
会場にずらり並んだ彼の作品を観ていくと、風景が写り込んだ窓ガラス(反射するもの)、信号機や車のテールランプ、雨に濡れた路面(光るもの)、窓にびっしりついた雨滴や空からしんしんと落ちてくる雪(小さくてたくさんあるもの)、離れた位置から眺めた群衆や車列、または女性の髪(揺れたり蠢くもの)……。「写真映え」するものばかりをカメラで切り取っているのがわかる。
「写真映え」する要素はどれも生命の根源に通ずるもので、それらが写っていると画面が輝き躍動するのは、動かない絵から生命感を得られるからだ。ソール・ライターの写真が時を経てもキラキラとしているのは、まさにその効果。「写真映え」するものの群れによって、どの写真にも生命感が横溢している。そうした写真が積み重なることで、展示全体からはニューヨークの街の息吹きみたいなものまで伝わってくる。