NHK大河ドラマ「べらぼう」で小芝風花さん演じる、吉原の花魁・瀬川とはどんな人物だったのか。歴史評論家の香原斗志さんは「彼女について残されている史料は多くはないが、ドラマでの描かれ方に違和感を覚えるところはほとんどない。ただ一点だけ、史実と異なる点がある」という――。

写真=時事通信フォト 2022年オスカープロモーション新春晴れ着撮影会での小芝風花(=2021年12月9日、東京都港区の明治記念館) - 写真=時事通信フォト

五代目瀬川と蔦重のその後

幕府による盲人保護策を逆手にとった法外な高利貸し(座頭貸し)が摘発され、捕らえられた鳥山検校(市原隼人)。この男に身請けされ妻になっていた五代目瀬川(小芝風花)も連行されたが、追って釈放され、花魁時代に所属していた吉原の妓楼、松葉屋の預かりになった。NHK大河ドラマ「べらぼう」第14回「蔦重瀬川夫婦道中」(4月6日放送)。

吉原の五十間道にあらたに店を借り、年明け、すなわち安永8年(1779)正月から本屋を開くことになっていた蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)は、「できれば店、一緒にやってもらえねえかと思って」と瀬川を誘う。

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そのときは、検校の妻なので不可能な話にしか思えなかった瀬川だが、行所の白洲で検校との離縁を言い渡された。瀬川の面倒を見ることは遠慮したいと、検校から申し出があったという。瀬川はそれを、蔦重への思いが消えない自分への検校のやさしさと受けとり、礼をいった。

ともかく、こうして瀬川が自由の身になったことで蔦重は大よろこびし、彼女と所帯をもって本屋を一緒に切り盛りする準備に奔走。2人で楽しそうに、あたらしい本のアイデアを出し合った。

ところが、年が明けると瀬川は手紙を残して姿を消していた。

この点だけは史実と大きく異なっていた

瀬川は2つの理由から蔦重を慮って、みずから姿を消したのだった。

一つは、鳥山検校が多くの人から恨まれる存在で、その妻となった自分もまた、同様に恨まれていると認識したからだった。瀬川が一時的に身を置いていた松葉屋の寮に、堕胎して体調を崩した松崎(新井美羽)という若い女郎が運び込まれ、瀬川は身の回りの世話をしていたが、ある日、包丁で瀬川を襲ったのだ。座頭金に苦しめられて自殺した両親への恨みを晴らそうとした、とのことだった。