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イノベーションの最前線 東大発ベンチャー・シャフト元CFO激白 世界一の国産ロボットはなぜグーグルに買われたのか

「支援する枠組みは行政に無い」――日本からジョブズが出現しないのはなぜか

2014/12/17

 それまでの十年間、僕は企業を立て直すことに人生を懸けてきました。それは焼け野原を疾走するようなヒリヒリとした時間でした。僕にはビジネスに対する情熱があり、彼らにはロボットに対する情熱があった。そこには確かな尊敬と共感の念が生まれていました。

 情熱だけではありません。彼らは世界で戦える、革命的な技術を持っていました。

 あの日彼らは、相当の強さで前後左右から蹴られても倒れない下半身ロボットの映像を見せてくれました。僕はひと目見て、この技術はすごいと直感しました。グーグルのルービンもこれにすぐ気づきました。想像を超えるほどの強い関節出力を実現する技術。この技術を開発したのが、無口な浦田さんでした。彼らのロボットは、ホンダのロボットASIMOとは動き方がまったく違います。いつかヒト型ロボット産業が生まれた暁には、この技術が欠かせない要素になるだろう――。僕は二人の力になることを心に決めたのです。

なぜ日本は賭けられなかったのか?

 僕の仕事は彼らの技術をビジネスに仕立て上げることと、それを展開できる資金を調達することでした。ヒト型ロボットのビジネスに本格的に取り組むなら、最終的に五〇億、一〇〇億円のお金がかかります。試作機を一体作るだけで、数千万円が必要なのです。

 しかし、資金調達は困難を極めました。

 先ほど紹介したロボットの映像を見せながら、日本のベンチャーキャピタルに出資をお願いすると、返ってくる反応は、だいたい次のようなものでした。

「面白いですね……。ところで、アメリカのヒト型ロボット市場はどうなっているんですか?」

「マーケットでの競合他社は?」

 そんな通り一遍の質問に僕は、こう答えました。

「そんなものはありません。ヒト型ロボットの分野では、日本が世界の先頭を走っているんです。アメリカのマーケットを見てもしょうがない。自分たちがどうやって初期の市場を形成できるか考えるべきです」

 しかし、相手はポカンとしている。

 なぜ、このような反応が返ってくるかといえば、日本のベンチャーキャピタルのほとんどは、アメリカやヨーロッパでうまくいったビジネスモデルが、どのようにすれば日本でコピーできるかばかりを考えてきたからです。日本は一億人以上の成熟した消費者がいる、世界でも有数のマーケットです。その上、言語の障壁があるから、外国からは参入しにくい。すると、アメリカのモノマネでも日本だけで鎖国的なマーケットを作ることができ、巨額の先行投資をしなくても、コピー代だけ払えば、そこそこのリターンが得られてしまう。だから、日本のベンチャーで成功したと言われている企業や新興市場に上場した企業は、モノマネベンチャーのオンパレードなのです。リスクを取って、巨額の先行投資をし、自分の腕一本で新しい産業や市場をこじ開けてやろう、という気概に満ちたベンチャーキャピタリストなど、日本では皆無だと思います。

 シャフトがグーグルに買収された今となってみると、なぜ、日本でその可能性に賭けられる人がいなかったのでしょうか? とよく訊かれます。いちばん大きな原因は、何でも既成のモノマネモデルに落とし込もうとする思考のトラップに、専門家と言われる多くの人たちが絡めとられていたからでしょう。

 何より幻滅したのは、技術について深掘りして聞く人がいなかったことです。もともとインテルの技術者で、アメリカのベンチャーキャピタリストとして、アマゾン、グーグル、ネットスケープに出資して大成功したジョン・ドーアは、とにかく技術が好きで、革新的な技術に出合うと、話しながら興奮してきて、手が震えてくるそうです。そんなふうに技術そのものを愛している人こそが、産業を丸ごと作り出すようなイノベーションを支えることができるのだと思います。

 資金調達が思うように進まないなか、あくまで実用可能なヒト型ロボットの完成を目指すか、それを諦めて世界一の要素技術(その製品の根幹をなす技術)にビジネスを絞って、三~五年で成果を出す方向性に進むか、選択を迫られました。しかし、すでに東大助教の地位を擲(なげう)っていた中西・浦田の強い意思を受け、僕たちはあえてヒト型ロボット市場を切り拓くという、いばらの道を選びました。その決意を胸に僕たちは二〇一二年五月一五日、シャフトを設立したのです。

 シャフトに大きな助け舟を出してくれたのは、アメリカのDARPA(米国国防総省高等研究計画局)からの補助金でした。DARPAがヒト型ロボットを技術開発の重点開拓テーマとすることを発表したのを受け、シャフトはこれに応募し、審査を通過したのです。

 それでも、中西さんと浦田さんが研究・開発に身を捧げるのに必要な資金には遠く及びませんでした。

 そこで僕たちは、官製の投資ファンドや霞が関の中央官庁に支援を求めました。しかし、イノベーションを謳う官製ファンドの返答は予想外のものでした。

「ロボティクスに関しては、過去、中央官庁でも色々と議論をして、レポートにもまとめられている。ヒト型に市場は無いという結論だ。うちもファンドとしてリターンを出さなければならない以上、出資は難しい」

 当時、僕たちが求めていたのは、たった三億円のお金でした。一兆円持っている官製ファンドが、日本が世界に誇る数少ない技術分野に対して、なぜ三億円を投資できなかったのか、今でも判然としません。

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