水族館のすべてを知り尽くす敏腕プロデューサーが、全国の水族館から30館を独自の哲学で選んだ『水族館哲学 人生が変わる30館』が刊行されました。個性あふれる水族館の中には、廃館寸前であったり、集客に不都合ばかりだったのに、見事に再生した水族館も。いずれも個性的で魅力満載です。大水槽にゆらめく魚やかわいい水生生物たちに癒されませんか。
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日本人がオアシスを求める理由
東京池袋、サンシャインシティの10階でエレベーターを降りたとたん、目の前に流れ落ちる人工滝の爽やかな音と、青い池を包むように茂った植物の緑によって、心は一瞬にして南洋のリゾートへとワープする。サンシャイン水族館は大都会の高層ビルの最上階にある世界唯一の水族館だ。
2011年、私も関わったリニューアルにより、サンシャイン水族館は「天空のオアシス」として生まれ変わり、関東のみならず全国から、入りきれないほどのみなさんにお越しいただける最先端水族館になった。
砂漠の民でもない日本人が、それほどまでにオアシスを求めている理由――実はそれこそが、日本において水族館がこれほどまでに盛んになった理由でもある。
原始より人類は、森や草原の豊かな食物と、安全な気候、飲み水のある土地を求めて旅をしながら、世界中に広がっていった。だから、植物の緑色と、嵐の無い青空とそれを映した水面の青色は、人の精神を落ち着かせ安心させる色となった。
とりわけ四季のある日本では、草木の緑や天候には敏感になった。太陽と水に依存する稲作農耕を始めてからは、ますますその傾向は強まっただろう。日本の神社が緑に包まれ清涼な水を有するのも、人々が平穏な日々への願いを込めたからではないだろうか。
それに対して、緑の消えた森や嵐を映す濁った水面は冬を思わせ、ストレスを感じるはずだ。そして現代の日本は、先進国とされる国々の中ではまだ木々の緑が多く、清らかな川と美しい海の多い国土ではあるものの、都会はコンクリート色に染められ、川も港湾もどんよりと濁っている。
だから人々は、休日になると海や山の行楽地に出かけてホッと一息つく。さらに余裕のある人は、森や川辺でキャンプをしたり、海でダイビングを楽しむ。そうやって精神の均衡を保とうとしているのだ。