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北の大地の水族館 山の水族館「低予算、極寒……弱点を強みに」――水族館哲学3

水族館プロデューサー・中村元の『水族館哲学』から紹介します

2017/07/09

弱点をどうやって武器にしたのか? 

 もちろん、私を含めた多くの人が、そんな天才であるわけがない。そして当然の成り行きながら、弱点を克服できるような努力家でも秀才でもないのだ。

展示生物のほとんどはスタッフの自家採集による。写真はトミヨ。

 そんな凡人が威張って言うのもなんなのだが、弱点を克服するのは時間とエネルギーの無駄だと思う。学校勉強程度ならまだいいが、実社会は別物だ。例えば北の大地の水族館が、冬に極寒となる弱点を克服しようとしたら、巨大なドームで覆うしかない。それだけで、建設予算は全て吹っ飛んでしまう上に、やったところで沖縄の気候に並ぶはずがない。 

 そこで、弱点「極寒」を十分認識した上で、武器に変える戦略だ。ここでは「極小予算」も合わせ技にして使った。 

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 予算がなくても展示水槽を増やすために、水族館の外に穴を掘って、壁にアクリルパネルを入れただけの水槽にした。そこに高価な起流ポンプを超低予算ながら導入し、世界初の急流の川水槽をつくった。気温が氷点下になる頃には、流れが止まり自然に氷が張り始める。真冬には、世界でも例のない、結氷した川の氷の下で春をじっと待つ魚たちの様子を見ることのできる展示となる。 

 このあたりの川は冬になれば結氷し雪が積もるが、誰もその氷の下を覗いたことはない。全道民どころか世界中の人々の好奇心に火をつけるだろう。さらに、このような季節ものの話題は、東京のメディアも惹きつける。毎年必ずどこかで紹介されることになるだろう。……結果、その読みは大当たりだった。

「四季の水槽」は厳寒の時期になると、凍った川の水中を見せる世界唯一の展示になる。