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北の大地の水族館 山の水族館「低予算、極寒……弱点を強みに」――水族館哲学3

水族館プロデューサー・中村元の『水族館哲学』から紹介します

2017/07/09

貧乏水族館から生まれた「世界初」の水塊 

 誰も見たことのない滝壺水槽の中を見せるために、アクリルトンネルを低予算ゆえ半分だけ使って、世界初の下から見上げる半トンネル水槽に仕立てあげた。これにより、瀑布による激流の泡の中で、きらめくオショロコマたちの泳ぎが見られる魅力的な水塊が誕生した。

1m超の巨大イトウと会えるのはここだけ。数もおびただしく、世界一のイトウ展示。

 また、運営費を抑えるために廃業した地元の温泉のお湯を飼育に使っていたのを逆手に取り、魚が美しく育つ「魔法の温泉水」を使っているとアピールし、水族館の話題づくりと温泉旅館の復興も行った。実際、この水族館の淡水熱帯魚は良質の温泉水と豊かな地下水のおかげで、怪我の治癒も早くスベスベと綺麗に輝いている。

魔法の温泉水で美しく育ったピラルク。

 仕上げには、酷寒の地にある寂れた温泉地の貧乏水族館だが、「世界初」も「世界一」もある水族館が誕生したとして、日本人の判官贔屓に火をつける作戦に出た。その結果、オープン後の1年間で、旧水族館の15倍という集客を果たし、地元への経済効果は43億円とはじき出される水族館が誕生したのだ。考えてみて欲しい。もし、弱点が半分しかなかったなら、この結果を出せただろうか? 否!

幻想的な北海道の湖を再現したイトウの水槽。

 自らの弱点を自覚している方には、ぜひ一度お越しいただきたい。我が門下生の館長が、運営の上でも弱点を武器にした新たな取り組みを次々にやっている。弱点を武器にするあなたなりの方法を見つけられるはずだ。

CHECK!
大人気のプログラム「いただきますライブ」を狙いたい。巨大なイトウ(日によって南米の巨大魚)に生きたニジマスを与えて、「襲う×逃げる」捕食行動を観察できる。私たちヒトも含めて、地球上の動物は命を奪い合うことで生きているというメッセージを水族館から発信するための食育プログラムだ。スーパーに並んでいる魚も肉も野菜も、誰かがその命を断ってくれたからそこにある。「いただきます」の本当の意味を実感できるはずだ。

DATA

北の大地の水族館 山の水族館
TEL.....................0157-45-2223
住所....................北海道北見市留辺蘂町松山1-4
URL.....................http://onneyu-aq.com/
開館時間.............8:30~17:00(4~10月)、9:00~16:30(11~3月)
休館日.................4月8~14日、12月26日~1月1日
入館料.................大人670円、中学生440円、小学生300円
交通....................JR留辺蘂駅から道の駅おんねゆ温泉行きバス約20分、終点下車徒歩約2分
車=旭川市街から国道39号で約2時間30分

データは2017年5月現在のものです。

文・写真 中村元

水族館哲学 人生が変わる30館(文春文庫)

中村元(著)

文藝春秋
2017年7月6日発売

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