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「あの頃」の野球が過去になってしまう寂しさ

 目の前の(2017年の)一戦は中田翔の2ランで始まったものの、西武打線にポンスカ打たれあっさり逆転されていた。先発・高梨裕稔も決め手に欠けるが、キャッチャー・清水優心のリードも外の真っすぐ一辺倒で単調に思えた。それで1998年のキャッチャー・野口寿浩が言ってたことを思い出したのだ。

 野口も外角一辺倒のリードで、よく踏み込まれて痛打を浴びていた。98年は「ビッグバン打線」の年だ。チームは夏場、急失速した。上田監督が激怒したらしい。野口を呼び出し「なぜインコースを使わない?」と問いただす。上田さんはこうと決めたら絶対自分を曲げない。野口が「打たれますよ。本当にインコース投げさせていいんですか?」と言っても、「いいから投げさせろ」の一点張り。

 「やっぱり打たれましたね」と野口は言った。当時、ファイターズは夏場、都市対抗で東京ドームが使えなかった。「死のロード」があったのだ。日程に空きがあっても巨人が優先だ。夏場は選手がヘロヘロで、特に投手陣がバテていた。「ビッグバン打線」を上回る炎上ぶりで評判だった「ビッグバン投手陣」は一体、どういうニュアンスから出現したかを尋ねたとき、野口寿浩がこっそり教えてくれた話だ。

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 これは両方わかるのだ。上田さんの言われるようにピッチャーは闘志だ。ごまかしたり逃げたりする投球は絶対に通用しない。僕は上田さんのそういう一途さが大好きだ。が、一方で野口の言わんとしたことも納得だ。闘志は大事だが、球威のないインコースの球は危険極まりない。夏バテでキレを欠くときはインコースは見せ球くらいにして、外角低めに投げておきたい。清水優心はあの夏のファイターズに負けないくらいポンスカ打たれていたが(そして好き放題、盗塁されてたが)必死にリードを勉強してほしい。若手が育たなかったらちょっと寂しいシーズンだ。

 あのとき真剣に見ていた野球が過去になる。あのとき悔しかった試合が過去になる。手を伸ばせばすぐそこにあって届きそうな「あの頃」が彼方に消えてしまう。それを重い石のように感じながら、あーあ、つまんないなと4対11の試合を見ていた。つまんないのは中村剛也に2ホームラン(文字通り「おかわり」!)を喫したからじゃない。もっとどうにもならないことだ。どうして僕らは大好きな人と別れなきゃならないんだろう。

 附記、3日のウイニングボールと中村剛也のホームランボールは翌4日、森慎二さんの告別式に届けられた。

 

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